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会社の秘匿されるべき情報が、共産党の機関紙によって報道されたため、
その取材源を特定するべく使用者が、
取材源である可能性が高い労働者に事情を聴取し、
その際に、共産党員であるかどうかを尋ねたことは、
労働者の精神的自由の侵害にあたるのでしょうか。
【事件の概要】
電力会社Y塩山営業所(以下「本件営業所」という。)の公開されるべきでないとされている情報が、
ひそかに外部に漏れて日本共産党(以下「共産党」という。)の機関紙「赤旗」紙上に報道されたことから、
当時、本件営業所の所長であった亡Aは、
本件営業所の責任者として右報道記事の取材源につき調査の必要を認め、
本件営業所の従業員の中でかねてから共産党の党員ないし、
その同調者であると噂の高かったXから事情を聴取することにしました。
亡Aは、Xを本件営業所の応接室に呼び、2人だけで約1時間にわたる話合い(以下「本件話合い」という。)をし、
その比較的冒頭の段階で、Xが共産党員であるかどうかを尋ねた(以下この質問を「本件質問」という。)が、
これに対しXは、共産党員ではない旨の返答をしました。
そこで、亡Aは、さらに、Xに対して、
Xが共産党員ではない旨を書面にしたためることを求めた(以下この要求を「本件書面交付の要求」という。)ところ、
Xは右要求を断る態度に出ました。
しかし、亡Aは、右書面を作成することの必要性などをいろいろ説いて右要求に応じさせようと、
再三にわたり話題を変えてXの説得に努め、
本件書面交付の要求を繰り返したが、Xはこれを拒否して退室しました。
Xは、思想、信条の自由が侵され精神的苦痛を与えられたとして、
慰謝料の支払を求めて争いました。
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【判決の概要】
右事実関係によれば、亡Aが本件話合いをするに至った動機、目的は、
本件営業所の公開されるべきでないとされていた情報が外部に漏れ、
共産党の機関紙「赤旗」紙上に報道されたことから、
当時、本件営業所の所長であった亡Aが、
その取材源ではないかと疑われていたXから事情を聴取することにあり、
本件話合いは企業秘密の漏えいという企業秩序違反行為の調査をするために行われたことが明らかであるから、
亡Aが本件話合いを持つに至ったことの必要性、合理性は、
これを肯認することができます。
右事実関係によれば、亡Aは、本件話合いの比較的冒頭の段階で、
Xに対し本件質問をしたのであるが、
右調査目的との関連性を明らかにしないで、
Xに対して共産党員であるか否かを尋ねたことは、
調査の方法として、その相当性に欠ける面があるものの、
前記赤旗の記事の取材源ではないかと疑われていたXに対し、
共産党との係わりの有無を尋ねることには、
その必要性、合理性を肯認することができないわけではなく、
また、本件質問の態様は、返答を強要するものではなかったというのであるから、
本件質問は、社会的に許容し得る限界を超えてXの精神的自由を侵害した違法行為であるとはいえません。
さらに、前記事実関係によれば、本件話合いの中で、
Xが本件質問に対し共産党員ではない旨の返答をしたところ、
亡AはXに対し本件書面交付の要求を繰り返したというのであるが、
企業内においても労働者の思想、信条等の精神的自由は十分尊重されるべきであることにかんがみると、
亡Aが、本件書面交付の要求と右調査目的との関連性を明らかにしないで、
右要求を繰り返したことは、
このような調査に当たる者として慎重な配慮を欠いたものというべきであり、
調査方法として不相当な面があるといわざるを得ません。
しかしながら、前記事実関係によれば、
本件書面交付の要求は、Xが共産党員ではない旨の返答をしたことから、
亡Aがその旨を書面にするように説得するに至ったものであり、
右要求は、強要にわたるものではなく、
また、本件話合いの中で、亡Aが、Xに対し、
Xが本件書面交付の要求を拒否することによって不利益な取扱いを受ける虞のあることを示唆したり、
右要求に応じることによって有利な取扱いを受け得る旨の発言をした事実はなく、
さらに、Xは右要求を拒否した、というのであって、
右事実関係に照らすと、亡Aがした本件書面交付の要求は、
社会的に許容し得る限界を超えてXの精神的自由を侵害した違法行為であるということはできません。
したがって、右確定事実の下において、
Xにつき所論の不法行為に基づく損害賠償請求権が認められないとした原審の判断は、
これを正当として是認することができます。
【関連判例】
→「富士重工業事件と調査協力義務」
→「東陶機器事件と所持品検査」
→「芸陽バス事件と所持品検査」
→「帝国通信工業事件と所持品検査」
→「サンデン交通事件と所持品検査」
→「日立物流事件と所持品検査」