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病気休職中の労働者が、自己の傷病は治癒したとして、
復職を申し出たが、職場復帰に対して、
配慮を全く考慮することなく退職扱いとされたが、
当該処分は有効なのでしょうか。
【事件の概要】
Yは、フランスに本店を置いて航空運輸業を営む会社で、
日本国内では新東京国際空港内等に支店を、東京に営業所等を設けています。
Xは、昭和40年5月にYに入社しました。
Xが新東京国際空港支店に勤務していた昭和54年6月5日以降、
結核性髄膜炎の療養のため長期病気休職していました。
Xは、昭和55年10月ころから、
病気が治癒したとして会社に復職を申し出たところ、
Yは、めまい、耳鳴り等の後遺症があるとして右申し出を拒否し、
昭和55年12月25日まで長期病気欠勤の期間を延長した後、
同日付をもってXを退職扱いとしました。
そこで、Xは、地位の保全等求めて争いました。
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【判決の概要】
右のような自然退職の規定は、
休職期間満了時になお休職事由が消滅していない場合に、
期間満了によって当然に復職となったと解したうえで改めて使用者が当該従業員を解雇するという迂遠の手続を回避するものとして合理性を有するものではあるが、
本件におけるように、
病気休職期間満了時に従業員が自己の傷病は治癒したとして復職を申し出たのに対し使用者の側ではその治癒がまだ充分ではないとして復職を拒否する場合の同規定の適用解釈にあたっては、
病気休職制度は傷病により労務の提供が不能となった労務者が直ちに使用者から解雇されることのないよう一定期間使用者の解雇権の行使を制限して労働者を保護する制度であることに思いを至せば、
右に述べた自然退職の規定の合理性の範囲を逸脱して使用者の有する解雇権の行使を実質的により容易ならしめる結果を招来することのないよう慎重に考慮しなければなりません。
したがって、使用者が従業員の復職の可能性を否定して更に休職期間を延長するのであればともかく、
復職を否定して休職期間満了による自然退職扱にする場合にあっては、
Yの主張するごとく、会社が客観的に当該従業員が原職に復帰しうると認める保障のない限り復職させる義務を会社に負わせるものではなく休職期間の経過により自動的に退職の効果が発生すると解することは、
復職を申し出る従業員に対して客観的に原職に復帰しうるまでに傷病が治癒したことの立証の責任を負わせることとなり、
休職中の従業員の復職を実質的に困難ならしめる場合も生ずることになるから妥当ではなく、
使用者が当該従業員が復職することを容認しえない事由を主張立証してはじめてその復職を拒否して自然退職の効果の発生を主張しうるものと解するのが相当です。
そして、傷病が治癒していないことをもって復職を容認しえない旨を主張する場合にあっては、
単に傷病が完治していないこと、
あるいは従前の職務を従前どおりに行えないことを主張立証すれば足りるのではなく、
治癒の程度が不完全なために労務の提供が不完全であり、
かつ、その程度が、今後の完治の見込みや、
復職が予定される職場の諸般の事情等を考慮して、
解雇を正当視しうるほどのものであることまでをも主張立証することを要するものと思料します。(中略)
以上をもとに、YがXに対してなした本件退職取扱の当否について判断するに、
YがXの復職申出に際してのタウン勤務への転勤を希望したのに対してこれを拒否したことは、
Yの当時の経営事情からしてやむえなかった措置として認容しうるが、
原職復帰を不可能として復職申出を拒否し、
昭和55年12月25日をもって退職したものとして扱っている措置は、
相当性を欠き、これを容認することはできないものと思料するが、
その理由は次のとおりである。(中略)
前認定の運航搭載課の職場事情のもとにおいてXを他の課員の協力を得て当初の間はドキュメンティストの業務のみを行なわせながら徐々に通常勤務に服させていくことも充分に考慮すべきであり、
前記の後遺症の回復の見通しについての調査をすることなく、
また、復職にあたって右のような配慮を全く考慮することなく、
単にA医師の判断のみを尊重して復職不可能と判断したYの措置は決して妥当なものとは認められません。(中略)
よって、YのXに対する本件退職取扱の措置は無効のものであり、
Xの復職申出を容れてXを従業員として取扱うべきものであると思料します。
【関連判例】
→「東海旅客鉄道事件と休職制度と職場復帰」
→「アロマ・カラー事件と休職制度と職場復帰」
→「全日本空輸(退職強要)事件と休職制度と職場復帰」
→「キャノンソフト情報システム事件と労務の提供」