金沢セクシュアルハラスメント事件とセクハラの定義

(名古屋高金沢支判平8.10.30)

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家政婦的業務に従事していた女性労働者が、

抱きつかれたり性的交渉を求められる等のセクハラを受けたとして、

損害賠償請求をしたが、

セクハラの定義とはどのようなものなのでしょうか。

【事件の概要】


Xは、Y1会社の代表取締役であるY2の下で家政婦として働いています。

Y2は、Xにしつこく性交渉を迫り、日常的に性的言動を行っていました。

これに対し、Xが明確に拒絶したところ、

Y2がXに仕事の仕方を注意したことなどから、互いに不信感を募らせていきました。

その後、Xの行動についてY2が非難したところ、

Xが反抗的な態度を取ったため、Y2は激怒してXの顔を殴りました。

Y1に明確な規定はなかったものの、Y1のほかの従業員に対しては、

ボーナスが支給されていたことから、

Xはボーナスの支給を求めて Y2に抗議を繰り返しました。

Y2が解雇予告手当を提示してXを解雇しました。

そこで、Xは、上記の性交渉拒否や性的言動に対する嫌がらせと解雇は違法であるとして、

Y1とY2に対して損害賠償を求めて争いました。

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【判決の概要】


Y2は、Xを雇用して間もなく、自己が雇い主の立場にあることを奇貨として、

離婚して当時一人身であったXに、妻に逃げられた不遇の身をかこつような言動をし、

2月2日夜、Aと3人で飲食した際、

Y2の卑猥な言葉にもXが嫌がる風なく大胆に応じたことに気を許し、

以後、Y2宅で家政婦として勤務中、

あるいは勤務時間後のXに対し、性的な言動を平気で行い、

大胆にもXの胸を触ろうとしたり、首筋に口を寄せるなどし、

挙げ句には性交渉を迫り、3月27日には「お金をあげるから」と言って、

いきなりスラックスを下着ごとずらせる猥褻行為に出、

以後も、4月上旬に「社長のしていることはセクハラである」と抗議されるまで、

右性的な言動を繰り返したことが明らかです。

ところで、職場において、男性の上司が部下の女性に対し、

その地位を利用して、女性の意に反する性的言動に出た場合、

これがすべて違法と評価されるものではなく、

その行為の態様、行為者である男性の職務上の地位、年齢、

被害女性の年齢、婚姻歴の有無、両者のそれまでの関係、

当該言動の行われた場所、その言動の反復・継続性、被害女性の対応等を総合的にみて、

それが社会的見地から不相当とされる程度のものである場合には、

性的自由ないし性的自己決定権等の人格権を侵害するものとして、

違法となるというべきです。

これを本件についてみると、

前記一1ないし3で認定したY2及びXの年齢、経歴、婚姻歴等に、

右性的言動の行われた場所、Xの対応等からすると、

3月27日の強制猥褻行為はそれ自体違法である上、

その前後の2月3日以後4月上旬までのY2のXに対する言動は、

社会的見地から不相当とされる程度のものと認められ、

Xの人格の尊厳性を損なうものであることが明らかであるから違法というべきです。

また、8月7日の殴打は理由が何であれ、

それ自体違法な行為であることは明らかです。〔中略〕

前記認定の事実からすると、Y1は、9月14日にXを解雇したものと認められるところ、

最も雇い主との人的な信頼関係が要求される家政婦の職務内容、

元はと言えばY2の違法な言動が原因しているとはいえ、

Y2のした指示が、すべてセクシュアル・ハラスメントであるとして、

口頭及び文書で執拗に抗議する態度からして、

9月上旬時点で、両者の信頼関係は完全に損なわれるに至っていること及びXの家政婦としての能力に疑問の点があることからすれば、

同月14日付でしたY1のXに対する普通解雇の意思表示が、

使用者に認められた解雇の権利を濫用した違法なものとは認めることはできません。

【まとめ】


職場において、男性の上司が部下の女性に対し、

その地位を利用して、女性の意に反する性的言動に出た場合、

これがすべて違法と評価されるものではなく、

その行為の態様、行為者である男性の職務上の地位、年齢、

被害女性の年齢、婚姻歴の有無、両者のそれまでの関係、

当該言動の行われた場所、その言動の反復・継続性、被害女性の対応等を総合的にみて、

それが社会的見地から不相当とされる程度のものである場合には、

性的自由ないし性的自己決定権等の人格権を侵害するものとして、

違法となります。

【関連判例】


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