広島セクハラ(生命保険会社)事件と過失相殺

(広島地判平19.3.13)

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会社の忘年会で、上司からセクハラを受けたとして、

損害賠償を求めた女性労働者に対して、

過失相殺を適用しての賠償額の減額は、

認められるのでしょうか。

【事件の概要】


Y1は、生命保険等を業とする相互会社であり、

Y2~Y4は、それぞれ当時Y1の三次営業所長、

同営業所組織長、福山支社副長の地位にありました。

Xらは、いずれも当時Y1三次営業所の保険外交員であった女性です。

平成13年12月14日の忘年会の席で、Y2らは、Xらに対し、

抱きつく、蹴る、脇腹を掴む、左腕を胸の上付近に打ちつけて転倒させる、

2人で前後から羽交い絞めにして足を広げさせ股間に性器付近を押し付ける、

首を両足で挟み後ろに倒す、

背後から抱きつき写真を取らせる等の暴力行為・性的嫌がらせをしました。

そこで、Xらは、いずれも、本件忘年会におけるY2らの行為により、

頭痛あるいは不眠、不安等の精神症状を呈するようになり、

その治療のためカウンセリングや医師の治療を受けたこと、

Y1は、Y2らの行為について使用者責任を負うものであり、

Xらへの事後の適切な対応を怠って精神的苦痛を与えたことを主張し、

慰謝料及び治療費等の支払を求めて争いました。

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【判決の概要】


Y2ら3名の本件忘年会におけるXらに対する行為は、

暴力行為及び性的嫌がらせ行為としてXらの身体的自由、

性的自由及び人格権を侵害し不法行為に当たるといえます。

しかし、またXらの多くは、

本件忘年会当時かなりの人生経験を経た中高年に達する者であったことからすれば、

Y2らの行きすぎた行動を諫めるべきであったといえます。

ところがXらは、本件忘年会において、

Y2らの行為を特に咎めることなく、むしろ嬌声を上げて騒ぎ立て、

X1及びX2においてはY4を押し倒すなどしたことが認められ、

このようなXらの態度がY2らの感情を高ぶらせ、

セクハラ行為を煽る結果となったことは容易に推認されます。

したがって、Xらにも落ち度があったといえるから、

Xらの損害については過失相殺の法理を類推適用するのが相当です。

そして、上記のようなXらとY2らの過失内容に加えて、

XらがY2らに同調して騒ぎ立てたのは、

宴会の雰囲気を壊してはならないという思いや上司に当たるY2らへの遠慮からであったという側面も否定できないことを併せ考慮すると、

Y2らの責任はXらのそれと比較してはるかに重いといえるから、

Xらの責任を2割と認め、この限度で損害を減じるのが相当です。

本件忘年会は、睦会の主催で行われたものではあるが、

同会は三次営業所の全員をもって構成され、

職員相互の親睦を図ることを目的とした団体であること、

睦会の顧問は営業所長とされていること、

本件忘年会はY1の営業日で、しかも職員の勤務時間内に行われたこと、

本件忘年会は営業に関する慰労を兼ねたものであったことなどの各事実を総合すれば、

本件忘年会は職員の営業活力を醸成したり職場における人間関係を円滑にすることに資するものとして位置づけられ、

Y1の業務の一部あるいは少なくとも業務に密接に関連する行為として行われたものと認められます。

したがって、本件忘年会におけるY2らの前記不法行為は、

Y1の事業の執行につき行われたものといえます。

Xらは、いずれもY2らのセクハラ行為により、

頭痛あるいは不眠、不安等の精神症状を呈するようになり、

その治療のためカウンセリングを受けたと主張します。

しかし、Y2らが忘年会でしたセクハラ行為は、

一回性のその時のみの行為であることやその行為の内容に照らし、

それが長期間にわたるカウンセリングが必要なほどの精神的障害を与えたものとは必ずしも考え難いです。(中略)

Xらは、Y2らのセクハラ行為により精神的苦痛を被り、

それに伴い労働意欲が低下し、収入が減少した又は退職を余儀なくされたと主張します。

しかし、上記セクハラ行為は、その内容やXらのこれへの関わり方等にかんがみ、

長期間にわたって就労が不能又は困難になるほどの精神的苦痛を与えたものとは必ずしも言い難いです。

これに加え、平成14年1月にY1とT保険との経営統合が事実上白紙撤回となったことにより、

Y1では保険の解約が相次ぎ、Xらの営業成績が低下したことも考慮すると、

営業成績の低下と本件セクハラ行為との間の相当因果関係の存在を肯認することは困難です。(中略)

Y2らの各Xらに対するセクハラ行為は、

身体的自由、性的自由及び人格権を強く侵害するものであるから、

これを慰謝料額の判断において斟酌すべきです。

また、Y2らのセクハラ行為と、Xらのカウンセリング料、治療費、

逸失利益との間に相当因果関係は認められないけれども、

Xらの本件忘年会後の苛々感や男性に対する恐怖感、

嫌悪感等の精神症状は一定の限度でY2らのセクハラ行為に起因するものであると推認され、

この点もまた慰謝料額の判断において斟酌するのが相当です。

【まとめ】


女性社員らが男性社員らの行為を咎めることなく、

嬌声をあげて騒ぎ立てるなどした態度がセクハラ行為を煽る結果になったとして、

過失相殺の法理が類推適用されました。

【関連判例】


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