福岡セクシュアル・ハラスメント事件と職場環境調整義務

(福岡地判平4.4.16)

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使用者は、被用者の労務遂行に関連して、

職場が被用者にとって、

働きやすい環境を保つよう配慮する注意義務を負っているのでしょうか。

【事件の概要】


Xは、昭和60年12月からY1にアルバイトとして入社し、

その後、正社員となりました。

Xは、Y1においてY1の発行する雑誌の取材、執筆、

編集等の仕事を任されるようになりました。

Y2は、編集長であったが、X入社後1年ほど経たころには、

編集業務におけるXの役割が増大し、業務の重要部分にかかわれないなどから、

疎外感を持つようになり、

会社の関係者や取引先にXの性的言動に関する噂を流したり、

昭和63年3月には退職を求めたりしました。

Xは、Y1の専務に対し、Y2に謝罪させるように訴えたが、

専務は、あくまで両者の話合いによる解決を指示するにとどまりました。

最終的には、Xに対し、Y2との話合いがつかなければ退職してもらうしかないと話し、

Xは、退職に至り、

Y2は、3日間の自宅待機と賞与減額の処分がなされました。

そこで、Xは、Y2の行為はセクシャルハラスメントにあたるとして、

慰謝料等の支払を求めて争いました。

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【判決の概要】


Y2が、Y1の職場又はY1の社外ではあるが職務に関連する場において、

X又は職場の関係者に対し、

Xの個人的な性生活や性向を窺わせる事項について発言を行い、

その結果、Xを職場に居づらくさせる状況を作り出し、

しかも、右状況の出現について意図していたか、

又は少なくとも予見していた場合には、

それは、Xの人格を損なってその感情を害し、

Xにとって働きやすい職場環境のなかで働く利益を害するものであるから、

Y2はXに対して民法709条の不法行為責任を負うものと解するべきことはもとよりです。

Y2の一連の行動は、まとめてみると、

一つは、Y1の社内の関係者にXの私生活ことに異性関係に言及してそれが乱脈であるかのようにその性向を非難する発言をして働く女性としての評価を低下させた行為、

二つは、Xの異性関係者の個人名を具体的に挙げて、

Y1の内外の関係者に噂するなどし、Xに対する評価を低下させた行為であって、

直接Xに対してその私生活の在り方をやゆする行為と併せて、

いずれも異性関係等のXの個人的性生活をめぐるもので、

働く女性としてのXの評価を低下させる行為であり、

しかも、これらを上司である専務に真実であるかのように報告することによって、

最終的にはXをY1から退職せしめる結果にまで及んでいるます。

これらが、Xの意思に反し、

その名誉感情その他の人格権を害するものであることは言うまでもありません。

また、Y2がXに対して昭和63年3月にした退職要求の後XとY2との対立が激化してアルバイト学生からも専務に職場環境が悪いとの指摘が出されるほどになった等からも明らかなように、

右の一連の行為は、Xの職場環境を悪化させる原因を構成するものともなったのです。

そして、Y2としては、前記の一連の行為により右のような結果を招くであろうことは、

十分に予見し得たものと言うべきです。

もっとも、Xの職場環境の悪化の原因となったのは、

必ずしもY2の右一連の言動のみによるものではなく、

XとY2との対立関係にも大いに起因するものであり、

本件について判断するに際しては、

このような事情も十分考慮に入れるべきです。

しかしながら、現代社会の中における働く女性の地位や職場管理層を占める男性の間での女性観等に鑑みれば、

本件においては、Xの異性関係を中心とした私生活に関する非難等が対立関係の解決や相手方放逐の手段ないしは方途として用いられたことに、

その不法行為性を認めざるを得ません。

してみると、Y2は、前記一連の行為について、

Xに対し、不法行為責任を負うことを免れ難いです。

本件Y2の一連の行為はXの職場の上司としての立場からの職務の一環又はこれに関連するものとしてされたもので、

その対象者も、X本人のほかは、Y2の上司、

部下にあたる社員やアルバイト学生又はY1の取引先の社員であるから、

右一連の行為は、Y1の「事業の執行に付き」行われたものと認められ、

Y1はY2の使用者として不法行為責任を負うことを免れません。

使用者は、被用者との関係において社会通念上伴う義務として、

被用者が労務に服する過程で生命及び健康を害しないよう職場環境等につき配慮すべき注意義務を負うが、

そのほかにも、労務遂行に関連して被用者の人格的尊敬を侵しその労務提供に重大な支障を来す事由が発生することを防ぎ、

又はこれに適切に対処して、

職場が被用者にとって働きやすい環境を保つよう配慮する注意義務もあると解されるところ、

被用者を選任監督する立場にある者が、

右注意義務を怠った場合には右の立場にある者に被用者に対する不法行為が成立することがあり、

使用者も民法715条により不法行為責任を負うことがあると解するべきです。

以上のとおり、専務らの行為についても、

職場環境を調整するよう配慮する義務を怠り、

また、憲法や関係法令上雇用関係において男女を平等に取り扱うべきであるにもかかわらず、

主として女性であるXの譲歩、

犠牲において職場関係を調整しようとした点において不法行為性が認められるから、

Y1は、右不法行為についても、使用者責任を負うものというべきです。

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