熊本セクハラ(教会・幼稚園)事件とセクハラ行為の反復継続

(大阪高判平17.4.22)

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強制猥褻行為に該当しないセクハラ行為が、

反復継続された場合、

違法性の高いセクハラがあったと判断されるのでしょうか。

【事件の概要】


Yは、基督教団に属する宗教法人である教会の代表役員を務めるほか、

教会と同一敷地内に開園されている幼稚園の理事長兼園長を務めています。

Xは、平成9年12月に教団信徒となり、

翌年3月大學を卒業後本件教会に就職し、

Yの指導を受けて教会内での信徒の教育活動等に従事してきた女性です。

Yは、Xが着任早々、夜間Xと2人きりの車内でラブホテル街を通過し、

Xを不安に陥れたことを始めとして、

2人だけの車内や電話で夫婦の性生活や牧師として知った相談者の性に関する相談事を露骨に聞かせ、

Xとの性関係を望んでいるかのような趣旨の発言をし、

Xがさしている傘の中に入って腕を絡ませるように組み、

口説くような言葉を吐きながら2人きりの車内で手や腕を触り、

礼拝堂などで2人きりになった際に偶然を装いながら、

肘で胸を触ったり、手を太股に当て、

「僕は抱きたいと思った子しか雇わない」などと発言したりしました。

これらのYの行為により、Xは、体が動かない、胸が痛い、

生理が止まらない等体調を崩し、

更に頭痛、脱水症状等で入院することもありました。

その後、Xは、教会を退職したが、

退職後もPTSDに準ずるような重篤な精神的症状により、

新たな職場での就労が不可能となりました。

そこで、Xは、Yに対して、損害賠償を求めて争いました。

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【判決の概要】


YのXに対する卑猥な語りかけ、夜間の2人だけのドライブ、

傘に入ってきて腕を組んだこと、車内での接触、

更にYが少なからぬ回数Xに身体的接触した等の一連の行為は、

性的意図をもってのXを困惑させるためのものであって、

倫理的な非難の枠を超え、社会通念上相当とされる範囲を逸脱し、

Xに対する性的嫌がらせ行為であるといわざるを得ず、

Yは民法709条の不法行為責任を負うことは明らかです。

Xは22歳で神への献身と将来の希望に燃えて赴任したが、

聖俗いずれの場面でも絶対的優位者としての地位・立場にあったYから孤立無援の状態でセクハラ等の被害を受けたわけで、

Xの被った精神的苦痛は相当なものであったと推測されます。

他方、Yのセクハラ行為による被害は、平成12年7月までであって、

それ以降は伝道師らの助力も合って直接の被害がなかったことはX自身も認めているところです。   

Xは、平成13年2月9日に教会を退職し、

自宅に戻って同年4月1日から教学補佐の職を得たが、

体調を崩して休職し解雇されました。

Xは、本件加害行為によるPTSDであると主張し、

診断した医師も、XはPTSDの3大症状に該当する規定数の症状すべてが存在し、

XのPTSDは、Yによって加えられた性的嫌がらせ及び情緒的虐待を原因として生じたものと考えて何ら矛盾を生じるものではない等との意見書を開陳しています。

しかし、同意見書が挙げるXの症状は、

大きな精神的苦痛を受けた被害者であれば通常認められる症状であることや、

PTSDは心的外傷体験から6ヶ月以内の発症が原則であることからすると、

この意見書は採用できません。

Xが同医師の長期にわたる面接診断を受けながら体調を悪化させたのは、

Xが事情を訴えた教会や大学の関係者が真摯に向き合ってくれなかったことの悔しさ、

本件提訴が周囲の人に迷惑をかけているのではないかとの自罰的負担、

信徒が牧師を相手取って提訴することの心理的負担等のストレスなどが相俟っていると考えざるを得ないところ、

平成13年4月以降のXの体調不良は、

一連のYの行為とは無関係ではないものの、

上記のような事情が原因となっていると推測されるので、

Yの一連の加害行為と法的因果関係があるとは認め難いです。

Yのセクハラ行為等による慰謝料としては、

本件が聖俗いずれかの場面でも絶対的優位者としての地位、

立場にあったYが高圧的態度、優位的地位を誇示したものであって、

Xが長期間孤立無援の状態にあって多大の精神的苦痛を被ったことを斟酌するのは当然であるが、

平成13年4月以降のXの体調不良はYの加害行為と法的な因果関係があるとは認められないところです。

【関連判例】


「金沢セクシュアルハラスメント事件とセクハラの定義」
「岡山セクハラ(リサイクルショップA社)事件とセクハラの法的責任」
「東京航空会社派遣社員事件とセクハラの法的責任」
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