仙台セクハラ(自動車販売会社)事件と職場環境配慮義務

(仙台地判平13.3.26)

スポンサーリンク










セクハラ行為が発覚した後、

会社が迅速・適正に対処する義務を怠った場合、

職場環境配慮義務違反は認められるのでしょうか。

【事件の概要】


Yは、自動車販売等を業とする株式会社です。

Xは、Yの営業所で販売係として勤務していた女性社員です。

Xは、同営業所内の女子トイレ内にある掃除用具置場内に男性従業員Aが侵入していたのを発見し、

Aに用便中の姿を見られたかもしれないことに精神的苦痛を覚えていたが、

B店長、C常務、D部長などに適正な事実調査を行ってもらえませんでした。

結局、Y側には警察や社外に口外ないように指示されただけで、

思うように対応してもらえなかったこともあり、

B店長に反抗的な態度をとっていたところ、

営業所内の雰囲気が悪化したほか、

営業所の経営にも支障を来すようになったため、

Yから退職を求められたため退職しました。

そこで、Xは、Yに対し、雇用契約上の地位確認及び賃金支払の請求を、

また、構造上欠陥のある女子トイレを放置するなどとした職場環境整備義務違反、

不適切な対応及び不当な解雇による不法行為に基づき慰謝料等の支払を求めて争いました。

スポンサーリンク










【判決の概要】


事業主は、従業員に対し、

雇用契約上の附随義務として、

良好な職場環境の下で労務に従事できるよう施設を整備すべき義務を負っていると解すべきです。

争いのない事実等及び前記一で認定した事実からすれば、

本件女子トイレの構造は、男女別に設置されたトイレではあるが、

本件女子トイレ内に掃除道具置場があり、女性のみならず、

場合によっては男性も本件女子トイレの中に入っていく機会を作り出していたことが認められる上、

本件女子トイレ内の掃除道具置場と個室トイレとの間には、

板1枚の仕切しか設けられておらず、

しかも、床面から最大6,5センチメートルの空間があり、

また床からの高さ82センチメートルに位置する水道管の穴の周りにも隙間があって、

掃除道具置場から個室トイレ内を見通すことができる構造になっていた(どの程度見えるかは別として)のであるから、

本件女子トイレの構造に欠陥があり、

その設置保存に瑕疵が存在したことは否定できないものです。

しかしながら、他方で、右のような構造を持つトイレに対し、

女子従業員や女性客を含め、本件女子トイレの構造に気づき、

注意を喚起した者がいなかったというのであり、

してみれば、Yが本件女子トイレの設置保存に瑕疵が存在したことについて認識できる機会はなかったというべきであり、

したがって右瑕疵の存在を予見することもできなかったというべきです。

その意味で、本件では、

まさに本件侵入事件が発覚して初めてYの本件女子トイレの構造上の問題点が明らかになったというべきであり、

これをもって、Yに職場環境整備義務違反があったということはできません。〔中略〕

事業主は、雇用契約上、従業員に対し、

労務の提供に関して良好な職場環境の維持確保に配慮すべき義務を負い、

職場においてセクシャルハラスメントなど従業員の職場環境を侵害する事件が発生した場合、

誠実かつ適切な事後措置をとり、

その事案にかかる事実関係を迅速かつ正確に調査すること及び事案に誠実かつ適正に対処する義務を負っているというべきです。

本件侵入事件は、

事件当日にXがのぞき見目的で潜んでいたAを発見したもので、

のぞき見されたわけではないから直接的なセクシャルハラスメントの被害が顕在化した事案とまではいえないとしても、

Xがのぞき見目的で潜んでいたAを発見しなければ、

その後Xをはじめとする女子従業員のプライバシーが侵害されることになったばかりでなく、

同人が過去に同種の行為を反復継続していた可能性もあったのであるから、

職場環境を侵害する事案として、

Yには誠実かつ適正に対処する義務があったというべきです。

YのE店の長であり従業員の監督責任者であるB店長は、本件侵入事件が発覚した後、

事件当日のうちにF営業係長から本件侵入事件の報告を受け、

さらに午後6時のミーティング時に、

XからAに事情を聞いて欲しい旨の申告を受けていたのであり、

しかも、Xは、B店長に対し、

Aが人に頼まれて写真を撮ろうとして掃除道具置場内に侵入していたこと、

雑誌社に送るといい金になると電話で話していたことを指摘しており、

このことが真実であれば、

単なる一時的な出来心の場合よりも事態は相当に深刻であり、

Xを初めとする女性従業員並びに顧客が被害に遭っている可能性が高いものです。

また、写真などは隠滅が容易であって、

のぞき行為が発覚したAが右証拠の隠滅に及ぶことは容易に想像できたというべきです。

このような場合、Yとしては、当日のうちにAに対し、

電話などで、AがXに対し電話で話した内容、

すなわちのぞき見目的で侵入していたか、

人に頼まれて写真を撮ろうとしていたか、

雑誌社に送っているのかどうか等について事情を聴取し、

その上で、被害回復、再発防止のための適切な対処をする義務が存在したというべきです。〔中略〕

しかるに、B店長は、本件侵入事件当日が初売り期間中で仕事が残っていたこと、

性質上直ちに事情を聞かなければならない程の緊急性のある事件ではないと判断したことなどから、

Aが出勤する6日に事情を聞くことにし、

Xに対しては警察に届けないように口止めして、

初売りの仕事を優先して続けたのであり、

Yは本件侵入事件に対する初期の適正迅速な事実調査義務を怠ったというべきです。

Xは、6月5日、Yの求めに応じて退職願を提出し、

退職後、B店長に対し、

退職金が支払われる時期について強い調子で尋ねた上、

異議なく退職金を受領していること、

Xは、Yから、退職理由を「依願退職による」とする離職票の交付を受け、

これを公共職業安定所に提出して雇用保険の給付の申請を行っていること、

Xは自動車の洗車やオイル交換などで何度かYのE店を訪れているが、

出勤して働きたいと申し出たことや未だ労働契約上の地位を有すると発言したことはなかったこと、

XはYに対し、代理人を通じて精神的損害に対する損害賠償を打診したことはあったが、

XがなおもYの従業員たる地位を有することを主張したのは、

退職から1年近くを経過して提起された本訴においてが初めてであり、

地位保全・賃金仮払いの仮処分の申立てなどの手段もとっていないことなどの諸般の事情を考慮すれば、

XはYを任意退職したとの認識を有していたものというべきであり、

これらの事実も、Xが任意退職したことを裏付けるものです(Xは、5月29日、Yを辞めなければならないことに納得がいかず、労働基準監督署に赴いて事情を話し、担当署員から勤務を続けてみればと助言を受けたものの、結局5月31日をもって勤務を終了しており、右の経緯に鑑みれば、Xが労働基準監督署に行ったことをもってYを任意退職したことの認定が左右されるものではない。)。

以上によれば、XがYに対し不当解雇を理由に慰謝料を求めることもできません。〔中略〕

XのYに対する請求のうち認容できるのは、

本件侵入事件に対するYの不適切な対応(職場環境配慮義務)による精神的苦痛に対する損害賠償請求であるところ、

XがYに対し、本件侵入事件に対する適正かつ迅速な対応を求めたにもかかわらず、

B店長らは、事件当日にAから事情を聞くのを怠った上、

その後のAの言い分を安易に事実と受け止め、

それ以上の対応を怠ったものであり、

これらYの不適切な対応が重なってXが精神的苦痛を覚え、

ひいてはYを退職するに至ったものというべきであり、

前記四のとおり、Xの右退職が任意退職であるとしても、

Yに8年余り勤務し安定した給与を得ていたXの無念さは察して余りあるというべきです。

したがって、このような事情を斟酌すると、

Xの慰謝料としては320万円が相当であり、

これと相当因果関係を有する弁護士費用相当の損害額は30万円と認めるのが相当です。

【関連判例】


「金沢セクシュアルハラスメント事件とセクハラの定義」
「岡山セクハラ(リサイクルショップA社)事件とセクハラの法的責任」
「東京航空会社派遣社員事件とセクハラの法的責任」
「横浜セクハラ事件とセクハラの法的責任」
「広島セクハラ(生命保険会社)事件と過失相殺」
「福岡セクシュアル・ハラスメント事件と職場環境調整義務」
「千葉不動産会社事件と強制猥褻的行為のセクハラ」
「熊本セクハラ(教会・幼稚園)事件とセクハラ行為の反復継続」
「岡山セクハラ(労働者派遣会社)事件と性的関係を迫る行為」
「大阪セクハラ(歯材販売会社)事件と性的関係を迫る行為」
「京都セクハラ(呉服販売会社)事件と噂の流布・不当な発言」
「独立行政法人L事件と不穏当な発言(いわゆる下ネタ)」
「三重セクシュアル・ハラスメント(厚生農協連合会)事件と職場環境配慮義務」