セガ・エンタープライゼス事件と能力不足を理由とする解雇

(東京地決平11.10.15)

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労働者の能力が全体の中で相対的に低位であったことから、

就業規則の「労働能率が劣り、向上の見込みがない」に該当するとして解雇されたが、

当該解雇は有効なのでしょうか。

【事件の概要】


Yは、業務用娯楽機械・家庭用ゲーム機器の製造販売を業とする株式会社です。

Xは、平成2年大学院を修了し、同年4月1日、

Yと期限の定めのない雇用契約を締結し、人事部採用課に配属され、

同年9月1日から人材開発部教育課、平成3年5月1日から企画制作部企画制作一課、

平成5年7月1日から企画制作部企画制作一課の解散に伴い開発業務部国内業務課、

平成6年9月1日から組織変更に伴い第二設計部(後に第二開発部と名称変更された。)ソフト設計課、

平成9年8月1日からCS品質保証部ソフト検査課にそれぞれ配属されました。

Xは、CS品質保証部ソフト検査課に勤務していたが、

Yから、平成10年12月10日付けで、パソナルーム勤務を命じられ、

平成11年1月26日付けで、同年3月末日をもって退職するよう勧告を受けました。

XがYからの退職勧告を拒否したところ、

Yは、Xに対し、同年2月18日付けで、

就業規則19条1項2号「労働能率が劣り、向上の見込みがないと認めたとき」に該当するとして、

同年3月31日をもって解雇しました。

そこで、Xは、解雇を無効として、地位保全・賃金仮払いの仮処分を申し立てました。

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【判決の概要】


Xは、人材開発部人材教育課において、

的確な業務遂行ができなかった結果、

企画制作部企画制作一課に配置転換させられたこと、

同課では、海外の外注管理を担当できる程度の英語力を備えていなかったこと、

ゲームアーツから苦情が出て、国内の外注管理業務から外されたこと、

アルバイト従業員の雇用事務、労務管理についても高い評価は得られなかったこと、

加えて、平成10年のXの3回の人事考課の結果は、

それぞれ3、3、2で、いずれも下位10パーセント未満の考課順位であり、

Xのように平均が3であった従業員は、

約3500名の従業員のうち200名であったこと(前記一3(一)ないし(三))からすると、

Yにおいて、Xの業務遂行は、平均的な程度に達していなかったというほかありません。〔中略〕

ただ、右のように、Xが、Yの従業員として、

平均的な水準に達していなかったからといって、

直ちに本件解雇が有効となるわけではありません。

Xは、就業規則19条1項2号「労働能率が劣り、向上の見込みがない」に該当するとして、

本件解雇を行っているので、

Xの業務遂行がこれに該当するかどうかについて検討されなければなりません(なお、Xは、このようなあいまいな基準で従業員を解雇することは許されない旨主張するが、本来解雇は自由であり、それが権利の濫用に当たる場合には、解雇が許されないものであると解するのが相当であるところ、こうした観点から考慮すれば、就業規則19条1項2号の解雇事由も、Yが従業員を解雇し得る場合を制限する規定であることは明らかであり、必ずしもあいまいであるとはいえず、Xの主張は採用できない。)。

そこで、就業規則19条1項各号に規定する解雇事由をみると、

「精神又は身体の障害により業務に堪えないとき」、

「会社の経営上やむを得ない事由があるとき」など極めて限定的な場合に限られており、

そのことからすれば、2号についても、

右の事由に匹敵するような場合に限って解雇が有効となると解するのが相当であり、

2号に該当するといえるためには、

平均的な水準に達していないというだけでは不十分であり、

著しく労働能率が劣り、

しかも向上の見込みがないときでなければならないというべきです。

Xについて、検討するに、確かにすでに認定したとおり、

平均的な水準に達しているとはいえないし、

Yの従業員の中で下位10パーセント未満の考課順位ではあります。

しかし、すでに述べたように右人事考課は、相対評価であって、

絶対評価ではないことからすると、

そのことから直ちに労働能率が著しく劣り、

向上の見込みがないとまでいうことはできません。

Yは、Xに退職を勧告したのと同時期に、

やはり考課順位の低かった者の中からXを除き55名に対し退職勧告をし、

55名はこれに応じています(前記一4(三))。

このように相対評価を前提として、

一定割合の従業員に対する退職勧告を毎年繰り返すとすれば、

Yの従業員の水準が全体として向上することは明らかであるものの、

相対的に10パーセント未満の下位の考課順位に属する者がいなくなることはありえないのです。

したがって、従業員全体の水準が向上しても、

Yは、毎年一定割合の従業員を解雇することが可能となります。

しかし、就業規則19条1項2号にいう「労働能率が劣り、向上の見込みがない」というのは、

右のような相対評価を前提とするものと解するのは相当でありません。

すでに述べたように、他の解雇事由との比較においても、

右解雇事由は、極めて限定的に解されなければならないのであって、

常に相対的に考課順位の低い者の解雇を許容するものと解することはできないからです。

Y提出にかかる各陳述書(乙一八、乙三五、乙五八、乙六一、乙七五、乙七九等)には、

Xにはやる気がない、積極性がない、意欲がない、あるいは自己中心的である、

協調性がない、反抗的な態度である、

融通が利かないといった記載がしばしば見受けられるが、

これらを裏付ける具体的な事実の指摘はなく、

こうした記載は直ちに採用することはできません。

また、学卒者の研修における業務遂行が的確ではなかったために人材開発部人材教育課から異動させられたり、

企画制作部制作一課においては、

海外の外注管理を担当するだけの英語力がなかったり、

国内の外注先から苦情を受けるなど対応が適切でなかった事実はあるものの、

企画制作部制作一課に所属当時、

エルダー社員に指名されたこともあり(前記一2(三)、なお、Yは、他の従業員が多忙であり、Xには、大した担当業務もなかったことから指名されたにすぎず、Xの能力とは関係ない旨の主張をするが、新入社員の指導は、Yにとっても重要な事項であることは容易に推測できるところ、労働能力が著しく劣り、向上の見込みもないような従業員にこうした業務を担当させることは、通常考えられず、Yの主張は採用できない。)、

平成4年7月1日に開発業務部国内業務課に配属されて以降、

Xは、一貫してアルバイト従業員の雇用管理に従事してきており、

ホームページを作成するなどアルバイトの包括的な指導、

教育等に取り組む姿勢も一応見せています。

これらのことからすると、Yとしては、Xに対し、

さらに体系的な教育、指導を実施することによって、

その労働能率の向上を図る余地もあるというべきであり(実際には、Xの試験結果が平均点前後であった技術教育を除いては、このよう教育、指導が行われた形跡はない。)、

いまだ「労働能率が劣り、向上の見込みがない」ときに該当するとはいえません。

なお、Yは、雇用関係を維持すべく努力したが、

Xを受け入れる部署がなかった旨の主張もするが、

Xが面接を受けた部署への異動が実現しなかった主たる理由はXに意欲が感じられない(前記一4(一))といった抽象的なものであることからすれば、

Yが雇用関係を維持するための努力をしたものと評価するのは困難です。

したがって、本件解雇は、権利の濫用に該当し、無効です。

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