フォード自動車事件と能力不足を理由とする解雇

(東京高判昭59.3.30)

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管理職として地位を特定した雇用契約の締結により、

中途採用された労働者が、勤務成績の不良を理由に解雇されたが、

当該解雇は有効なのでしょうか。

【事件の概要】


Yは、自動車の輸入、改造及び卸売販売、

並びに自動車部品の輸入、買付及び卸売販売を業とする株式会社です。

Xは、一般の従業員の雇用とは異なり、

「人事本部長」という職務上の地位を特定して、

特段の能力の存在を期待されて、Yに中途採用されました。

Xは、Yの要求する適格要件を知りながら、

採用後数か月を経てもなおYの人事本部長に適応するに至らなかったため、

Yは、就業規則32条1項(ト)「業務の履行又は能率が極めて悪く、引き続き勤務が不適当と認められる場合」、

及び同条項(リ)「雇用を終結しなければならないやむを得ない業務上の事情がある場合」に該当するとして、

Xを解雇しました。

そこで、Xは、解雇は無効であるとして雇用契約関係の存在、

及び賃金等の支払を求めて争いました。

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【判決の概要】


Yの就業規則10条に「当会社はその判断で従業員の配置転換、又は転勤を命じることができる。従業員は、正当な理由がない限り、転勤又は配置転換を拒否することはできない。」と規定されていることは明らかであり、

またXが本来人事関係に属しない業務に当ったことのあることは<略>までに説示(本判決で附加した分も含む。)のとおりです。

しかしながら、先に判示のとおりX・Y間の本件雇用契約は、

Xの学歴・職歴に着目して締結されました。

人事本部長という地位を特定した契約であって、

Xとしては提供される職位が人事本部長でなく一般の人事課員であったならば入社する意思はなく、

YとしてもXを人事本部長以外の地位・職務では採用する意思がなかったというのであり、

また、《証拠略》によれば、前記説示にかかる業務は、

Yの組織部分の間隙に介在する分野のものであって、

従前から、各部門において適宜分掌していたことが認められ、

これによると、右業務は人事本部長の職務に付随するものにすぎないから、

XがYから右業務の処理を命ぜられたことがあったからといって、

Xの職務上の地位にいささかも変動をもたらすものではなく、

したがって、YにはXを人事本部長として不適格と判断した場合に、

あらためて右規則10条に則り異なる職位・職種への適格性を判定し、

当該部署への配置転換等を命ずべき義務を負うものではないと解するのが相当です。

Xとbはeによって紹介され、

昭和51年4月ころから就職の交渉に入ったこと、

Yは、それ以前から、人員整理の必要に迫られていたこと、

しかし、6回以上にわたる両者の面談及び書類の交換の機会に、

人員整理問題は話題に上らなかったこと、

bは同年9月6日Xに対し人事本部長への就職方の申入れをしたこと、

Xは同月13日右申入れを承諾し、同月30日に日本IBMに退職願を提出したところ、

翌10月5日ころbから人員過剰問題を知らされたこと、

Xは同月15日からYの人事本部長として執務を開始したことが認められます。

しかし前示のとおり、Yが人事本部長をXに交代したのは、

本部長職に日本人を充てることが適当であると判断したためであり、

Xに対し人員整理完徹の責任を負わせるだけの目的で、

同人を採用したものであることを認めるに足りる証拠はなく、

また人員整理問題は人事関係の最上級管理職である人事本部長に就職しようとする者としては当然に予想すべき事柄であり、

この点に危惧があれば入社までに十分な期間が存したのであるから、

自らの責任で調査確認の上就職の可否を決すべきであり、

Yとしては、Xの就職前には、同人に対し、積極的に、

会社にとって最上級の機密事項に属する人員整理計画の存在について告知すべき義務があるとはいえないと解するのが相当です。

次に、YがXを試用期間中(昭和51年10月15日から同52年1月14日まで)に解雇しなかった理由は、

成立に争いのない乙第一二号証の一ないし三並びに証人aの証言によれば、

試用期間中にYがXの人事本部長としての能力を判定することを怠ったというよりは、

むしろXの立場を考慮し、

その能力を実証する機会を与えたためであることが認められ、

この認定を左右するに足りる証拠はなく、

前記3(一)ないし(三)において認定判断したように人事本部長としての適格性に欠け、

規則(ト)及び(リ)に該当する事由が認められる以上、

試用期間中に解雇しなかったことをもって権利の濫用となる余地はないというべきである。<中略>

以上に説示したところによれば、

本件解雇が権利の濫用であると認めるに足りる事情は認められず、

他に本件解雇が権利の濫用であると認めるに足りる証拠はありません。

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