ヒロセ電機事件と能力不足を理由とする解雇

(東京地判平14.10.22)

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勤務歴等に着目して業務上必要な日英の語学力、

品質管理能力を備えた即戦力として中途採用された労働者が、

業務遂行に誠意がなく知識・技能・能率が著しく劣るとして解雇されたが、

当該解雇は有効なのでしょうか。

【事件の概要】


Yは、各種電気機械器具の製造及び販売などを業とする会社です。

Xは、Yに海外重要顧客であるA社での勤務歴等に着目して業務上必要な日英の語学力、

品質管理能力を備えた即戦力となる人材であると判断されて、

品質管理部海外顧客担当で主事一級という待遇で中途採用されました。

Xは、入社4か月後に、上司への誹謗、業務命令違反、

基本的、専門的知識、能力の欠如、職場規律違反等を理由に、

就業規則の規定に基づき解雇されました。

そこで、Xは、Yに対し、本件解雇は解雇権の濫用に該当し無効であるとして、

労働契約上の地位の確認を請求しました。

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【判決の概要】


本件は、Xの職歴、特に海外重要顧客であるA社での勤務歴に着目し(前記1(2)イ)、

業務上必要な日英の語学力、

品質管理能力を備えた即戦力となる人材であると判断して品質管理部海外顧客担当で主事1級という待遇で採用し、

Xもそのことは理解して雇用された中途採用の事案であり、

長期雇用を前提とし新卒採用する場合と異なり、

Yが最初から教育を施して必要な能力を身につけさせるとか、

適性がない場合に受付や雑用など全く異なる部署に配転を検討すべき場合ではありません。

労働者が雇用時に予定された能力を全く有さず、

これを改善しようともしないような場合は解雇せざるを得ないのであって、

就業規則37条2号の規定もこのような趣旨をいうものと解するのが相当です。

そこで前記前提事実等に証人Bを併せ検討します。

まず、Xの業務遂行態度・能力(「業務遂行に誠意がなく知識・技能・能率が著しく劣り」)について見るに、

Xは、実はA社ではさしたる勤務経験を有さず品質管理に関する知識や能力が不足していました。

また、前記Xの作成した英文の報告書にはいずれも自社や相手先の名称、

クレーム内容、業界用語など到底許容しがたい重大な誤記、

誤訳や「カバーケース」を「hippo-case」と誤訳した点のように英語の読解力があれば一見して明らかであるものを含め多数の誤記・誤訳があり、

期待した英語能力にも大きな問題があり、

日本語能力についても、Xが日本語でYに提出する文書を妻に作成させながら、

自己の日本語能力が不十分であることを申し出ず、

かえって、その点の指摘に反論するなど、

客観的にはYにXの日本語能力を過大に評価させていたことから、

当初、履歴書等で想定されたのとは全く異なり極めて低いものでした。

さらには、英文報告書は上司の点検を経て海外事業部に提出せよとの業務命令に違反し、

上司の指導に反抗するなど勤務態度も不良でした。

このような点からするとXの業務遂行態度・能力は上記条項に該当するものと認められます。〔中略〕

本採用の許否を決定するに際し、

日本語能力や他からの指導を受け入れる態度、

すなわち協調性に問題があるとされ、

Xにおいて改善努力をするという約束の下に本採用されたのであるから、

上司の指摘を謙虚に受け止めて努力しない限りYとしては雇用を継続できない筋合いのものでした。

しかるに、本採用後、Xが日本語能力等の改善の努力をした形跡はなく、

かえって、その後さらに英語力や品質管理能力にも問題があることが判明したにもかかわらず、

Xの態度は、前記1(4)ア、イ(オ)、ウ(エ)など、

B副参事から正当な指導・助言を受けたのに対し、筋違いの反発をし、

品質管理に関する知識や能力が不足しているにもかかわらず、

ごくわずかの期間にすぎないA社での経験や能力を誇大に強調し、

あるいは、Cのサポートを断り、

「上司の承認を得る」という手続を踏まずに報告書を提出するという業務命令違反をし、

さらには、D部長ら上司からの改善を求める指導に対し自己の過誤を認めず却って上司を非難するなど、

Xはその態度を一層悪化させており、

XはYからの改善要求を拒否する態度を明確にしたといえるから、

これらの点の改善努力は期待できず、上記条項に該当するものと認められます。

以上によればXには「業務遂行に誠意がなく知識・技能・能率が著しく劣り将来の見込みがない」というべきであり、

就業規則37条2号の定める解雇事由があります。〔中略〕

就業規則の定める解雇事由に該当する事実がある場合でも、

解雇に処することが著しく不合理であり、

社会通念上相当なものとして是認することができないときには、

解雇権の濫用として無効になると解するのが相当です。〔中略〕

Xが指摘する点のうち(ア)及び(カ)は解雇後の事情であり直ちに権利濫用の判断に影響を与えるようなものではなく、

(イ)及び(オ)については前記2のとおり、

当初予定されたよりもXの能力は大幅に低いものであり、

(ウ)は前記のとおり事実の存在が認められず、

(エ)は、会社の業務を他人に行わせるということは債務不履行に他ならない上、

それがYのXに対する評価に誤解を与える性質のものであることを考慮すると何ら解雇権の濫用を基礎付けるものではありません。

ましてや、Xが重要な経歴(特にA社の在職期間)を詐称しており(Xは、「履歴書/職務経歴書」はXの妻がXから具体的内容の指示を受けずに作成し、Xはその内容を確認しないまま提出したと供述するが、仮にそうだとするとXは正確な内容の履歴書を提出しようという意欲すらないといえる。)、

本件解雇が入社後4か月半程度でされたものであることからすると、

本件解雇は、解雇に処することが著しく不合理であり、

社会通念上相当なものとして是認することができないとは到底いえません。

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