岡田運送事件と傷病を理由とする解雇

(東京地判平14.4.24)

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脳梗塞の診断を受け、欠勤していた労働者が懲戒解雇されたが、

当該解雇は有効なのでしょうか。

【事件の概要】


Yは、貨物自動車運送業等を業とする株式会社です。

Xは、Yで運転手として従事してきたが、脳梗塞の診断を受け、

会社に1週間勤務不可との診断書を提出後、

診断書の追加提出が必要か問い合わせたが、

解雇するからその必要はないといわれたため提出しなかったところ、

新たな診断書と欠勤届を提出せずに無断欠勤していたことを理由に懲戒解雇されました。

そこで、Xは、懲戒解雇は解雇権の濫用により無効であると主張して、

〔1〕雇用契約上の地位確認及び賃金の支払を、

予備的には〔2〕仮に解雇が有効であることを前提に、

解雇予告手当等の支払や不法行為責任に基づく損害賠償等請求を求めて争いました。

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【判決の概要】


Xは、8月20日付け診断書をYに同年8月20日すぎに提出してから、

就業規則25条(1)に定める欠勤についての上長への願い出及び就業規則25条(2)に定める1週間以上病気欠勤する際に従業員がなすべき診断書提出のいずれも行っていないことが認められるが、

これは、Yから、病気(脳梗塞)を理由に退職勧奨を受け、

診断書が必要か問い合わせた際、

上司から、解雇するから診断書は不要であると拒絶されたことによるものであるから、

Xが診断書を提出せず、

欠勤の願い出をしなかったことに正当な理由があるというべきです。

Xとして解雇を受け入れるつもりがないのであれば、

なおも診断書提出や欠勤の願い出を行うのが望ましかったとはいえるが、

Xの診断書不提出等が上司のこれを不要とする言動に基づくものである以上、

Xの診断書不提出等が企業秩序に違反する行為とはいえないことは明らかであり、

Xの診断書不提出等の行為には、正当な理由があります。

したがって、Xの無届欠勤は、就業規則28条(3)(イ)「正当な理由なしに無届欠勤7日以上に及ぶとき」には該当しないと解するのが相当です。〔中略〕

Xの欠勤が懲戒解雇事由に該当しないことから、

本件解雇は、Xの無届欠勤を理由とする懲戒解雇としては無効です。〔中略〕

懲戒解雇は、使用者による労働者の特定の企業秩序違反の行為に対する懲戒罰であり、

普通解雇は、使用者が行う労働契約の解約権の行使であり、

両者はそれぞれその社会的、法的意味を異にする意思表示であるから、

懲戒解雇の意思表示がされたからといって、

当然に普通解雇の意思表示がされたと認めることはできません。

他方、使用者が、懲戒解雇の要件は満たさないとしても、

当該労働者との雇用関係を解消したいとの意思を有しており、

懲戒解雇に至る経過に照らして、使用者が懲戒解雇の意思表示に、

予備的に普通解雇の意思表示をしたものと認定できる場合には、

懲戒解雇の意思表示に予備的に普通解雇の意思表示が内包されていると認めることができるものと解されます。〔中略〕

「Xは、脳梗塞、糖尿病により、平成12年3月17日現在、外来で内服加療中であるが、平成11年10月31日から平常業務可能である。」旨A病院医師に診断されていることが認められます。

しかし、同診断中「平常業務」の内容については明らかではないこと、

Xは、脳梗塞により平成11年7月28日から同年10月30日まで就労不能とのA病院医師の意見が記載された傷病手当金請求書を東京貨物運送健康保険組合に提出して傷病手当金の給付を受けたほか(〈証拠略〉)、

脳梗塞により同年11月1日から平成13年1月31日まで就労不能とのA病院医師の意見が記載された傷病手当金請求書をB健康保険組合に提出して傷病手当金の給付を受けていることが認められます(〈証拠略〉)。

そうすると、Xは、本件解雇通告の時点(平成11年11月(ママ)30日)で、

トラック運転手としての業務に就くことが不可能な状態であったことが認められるというべきで、

就業規則11条(4)の「身体の障害により業務に堪え得ないと認めたとき」の普通解雇事由に該当します。〔中略〕

Yの就業規則8条ないし10条は、

業務外の傷病による長期欠勤が一定期間に及んだとき、

使用者がその従業員に対し、

労働契約関係そのものは維持させながら、

労務の従事を免除する休職制度であるところ、

この趣旨とするところは、

労使双方に解雇の猶予を可能とすることにあると解されます。

したがって、かかる休職制度があるからといって、

直ちに休職を命じるまでの欠勤期間中解雇されない利益を従業員に保障したものとはいえず、

使用者には休職までの欠勤期間中解雇するか否か、

休職に付するか否かについてそれぞれ裁量があり、

この裁量を逸脱したと認められる場合にのみ解雇権濫用として解雇が無効となると解すべきです。

本件では、前記(1)のとおり、Xは、平成13年1月31日まで就労不能と診断されており、

仮に休職までの期間6か月及び休職期間3か月を経過したとしても就労は不能であったのであるから、

YがXを解雇するに際し、就業規則8条に定める休職までの欠勤期間を待たず、

かつ、休職を命じなかったからといって、

本件解雇が労使間の信義則に違反し、

社会通念上、客観的に合理性を欠くものとして解雇権の濫用になるとはいえません。

(1)、(2)のとおり、本件解雇は、普通解雇としては、

客観的、合理的な理由があり、

社会通念上相当なものとして是認することができるから、

解雇権を濫用したものとはいえません。〔中略〕

突然の解雇から被る労働者の生活の困窮を緩和するため30日前に解雇予告することを義務づけ、

これを緩和するには30日分の平均賃金の支払義務を定める労基法20条の趣旨に照らし、

労働者が解雇の効力を争わず、

予告手当の請求をしている場合には、

予告手当を支払わずに解雇を通知した使用者は、

その解雇の効力を生じた時点から、

解雇予告手当を支払うべき公法上の義務を負担しているというべきです。

Xは、予備的に、解雇の効力を争わず解雇予告手当の請求をしているから、

Yは、Xに対し、解雇の効力が生じた平成11年11月30日に解雇予告手当を支払う義務を負担したと解されます。

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