京都信用金庫事件と移籍出向

(大阪高判平14.10.30)

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在籍出向のごとき身分を約束して確認証を作成し転籍出向した労働者が、

出向期間満了に伴い復職の申し出をし、拒否されたが、

当該復職の拒否は認められるのでしょうか。

【事件の概要】


Yは、預金又は定期積金の受入れ・会員に対する資金の貸付け等を業とする信用金庫です。

Yの従業員であったXらは、昭和63年7月1日付けで、

Yから株式会社Aファイナンスに、移籍出向を命じられ、

その後何回かの出向延長に同意して平成10年に至り、

同年6月30日で移籍出向期間が満了することになっていました。

Xらは、移籍出向を命じられる際及びその期間延長・更新の際、

「確認証」と題する書面によって、身分の保全を受ける確認を得ていたが、

平成10年6月30日の移籍出向期間満了に伴い、

あらかじめYに復職の申し出をしたが、Yはその申し出を拒否しました。

そこで、Xらは、Yに対し、

それぞれ移籍出向期間の満了に伴いYの従業員に復帰したとして、

その雇用契約上の権利を有することの確認を求めて争いました。

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【判決の概要】


本件確認証は、昭和50年に発出された大蔵省の指導により信用金庫の関連会社の整理が進むなかで、

それまで在籍出向であった者も移籍出向とされるようになっていったが、

これに対する労働組合的存在であったY信用金庫職員会議の要求に応じ、

移籍出向ではあるもののあたかも在籍出向のごとき身分を約束するものとして本件確認証が作成されるに至ったものであること、

そして、Xらと同様に昭和63年にAファイナンスに移籍出向をしたうちの4名の者はYに復帰したが、

それは本件確認証と同様の確認証による約定に基づくものであることが認められ、

これらの事情を総合すれば本件確認証の趣旨は、

XらによるYへの復帰について申し出があるにもかかわらず、

期間の延長について3者間で協議がされ、

Yによる理由の説明がされなければ、

本件確認書ただし書等の適用除外事由が存しない限りは、

移籍出向期間の満了により移籍出向という効果がなくなり、

Xらは移籍出向前の状態であるYの職員に復帰するという趣旨の約定であると解するのが相当です。

そして、このような確認書が作成されるに至った経緯に、

Aファイナンスが経営困難になった場合の出向社員の人件費についての支援に関する覚書(〈証拠略〉)でも移籍出向とされていることに照らすと、

確認書が作成されたことをもって移籍出向が在籍出向に変化するものではないと解するのが相当です。〔中略〕

本件確認証には明記されてはいないものの、

雇用契約の性質上、Xらが、

その出向中にXらとY間の信頼関係を破壊したことにより、

Yにおいて、Xらが復帰したのちの雇用契約を維持することが困難となった場合には、

信義則上、YとしてXらの復帰を拒否しうるというべきです。

そして、信義則上YがXらの復帰を拒否しうるのは、

Xらが、その悪意又は重大な過失により、

XらとYとの間の信頼関係を破壊し、

雇用契約を維持することが困難な状況を作出した場合であると解するのが相当です。
〔中略〕

出向は、通常出向先企業が出向させた企業の子会社であるなど、

その影響下にあり、したがって、両者の関係が円満な場合に、

その人的支援や影響力の保持などを目的として行われるものと解され、

その限りにおいては、

出向を命じられた者がいずれの企業への利益に沿った行動をとるべきかなどという問題は生じません。

これと異なり、両企業の間で、

出向先企業が出向させた企業の影響下から離れ、

さらに両者間に対立関係が生じた場合には、

出向の基礎が失われたというべきであり、

出向させた企業としては、その時点で在籍出向であればこれを解消し、

移籍出向の場合であっても、出向をうち切ることを前提として、

出向者に対して、今後の就労先の意向を打診すべきであるでしょう。

特に、本件確認証が存することを考慮すれば、Xらに対して、

そのような措置がとられるべきであったと解されるが、

Yはそのような措置を全く講じませんでした。

Yは、出向させた企業と出向先企業とが対立する場合も、

出向が継続している以上は、

その従業員は、出向先企業への忠誠ではなく、

出向させた企業への忠誠を尽くすことが求められると主張するが、

それは両企業が対立関係にあることを無視したもので、

特に移籍出向の従業員との関係では、

出向先企業との雇用契約上の責務に反するとすれば懲戒の対象となり得ることになり相当でありません。

また、Xらは、Aファイナンスの取締役であったのであるから、

同会社に対する忠実義務及び善管義務を負っているのであり、

Yに対してそのような義務を負っているのではなく、

その間における同社の経営に対して商法上の責任をYに対しても負うべき場合が存するとしても、

それはあくまで、債権者の一人であるYへの間接責任に止まるのです。

これらの点を併せ考慮するとYの前記主張は採用できません。

以上認定したことからすると、信義則上、

YがXらの復帰を拒否しうるようなXらとY間の信頼関係を破壊するような事情は存しません。

したがって、Xらには、

本件確認証により移籍出向期間満了時にYへ復帰したものというべきです。

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