日立精機事件と転籍

(千葉地判昭56.5.25)

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関連企業・系列会社への転籍で、労働条件も不利益にはならず、

実質的には企業の一部門への配転と同じであるような場合においても、

転籍をする労働者の個別の同意が必要なのでしょうか。

【事件の概要】


Yは、精密工作機械の製造販売を業とする株式会社です。

Xは昭和49年4月にYに入社し、N工場電機課員として技術部門を担当してきました。

Yは、Xに対して、昭和50年6月16日付をもって、

A社に転属させる旨の業務命令を発令しました。

Aは、Yの輸出部門等が分離独立して設立され、

Yとの関係が深く、業務運営の面でもYの意向を反映した運営がなされていました。

Yは、従業員の募集に際してその勤務場所の一つにAを定め、

採用面接の際の身上調書においてもその旨を明らかにしており、

必要に応じてその社員をA社に転属させてきました。

Aへの転属は、転属通知と本人の赴任という社内配転と同様の簡略な手続で処理され、

組合もこれを了承し、永年異議なく運用されてきました。

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【判決の概要】


雇用契約は労働者が使用者の指揮命令下に労務を提供し、

その対価として使用者が労務者に賃金を支払うことを本質とし、

使用者と労務者との密接な関係を前提とするものであるから、

現に在籍する会社との雇用契約を終了させて新たに他の会社であるA会社との間に雇用契約を締結することを意味する本件転属の場合には転属者であるXの同意を要すると解さざるを得ません。

Yは会社とA会社が実質的に同一であって、

両社間の転属については社内配転と同様の運用がなされてきたとして本件転属にXの同意が不要である旨主張するが、

前認定から明らかなとおり、

A会社は会社とは別個の法人であって、

会社と密接な関係にあるものの、

その従業員に対し独自の指揮命令権を有しているから、

本件転属によって雇用契約上の使用者に変更をきたすことが明らかであるし、

Yのいうところの労働条件等の同一性も会社とA会社の法人格が異なる本件の場合には将来の保証に欠け、

転属により労働者の権利義務に変動が生じないとする資料とはなり得ないから、

Yの主張を肯認することはできません。

Xは転属に必要とされる転属者の同意は転属の際の個別具体的な同意に限られる旨主張するが、

そのように限定しなければならない理由はなく、

転属先の労働条件等から転属が著しく不利益であったり、

同意の後の不利益な事情変更により当初の同意を根拠に転属を命ずることが不当と認められるなど特段の事情のない限り、

入社の際の包括的同意を根拠に転属を命じうると解するのが相当です。

【関連判例】


「三和機材事件と転籍」
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