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労働者が移籍に関して同意すれば、
移籍後の雇用条件、移籍期日ひいては参加生協の退職時期について、
具体的には何も決定されていない場合でも、
移籍は成立するのでしょうか。
【事件の概要】
Y及びZは、店舗等を使用して生活協同組合事業を営む組合です。
Xは、昭和52年7月、Zとの間で雇用契約を締結しました。
ZとYは、XをZからYへ移籍させることについて合意し、
右合意に基づいて、ZのA理事は、平成元年7月8日、
Xに対し、Yへの移籍(以下「本件移籍」ということがある。)を提案し、
移籍承諾書への署名を求めました。
これに対し、Xは、右移籍承諾書に署名をしたが、
その原本は移籍が実現した際に提出することとして、
その写しをA理事に交付しました。
その後、XとYとで本件移籍に関する協議が行われ、
Xは、就業規則6条所定の「職員として採用された者」に要求される採用関係書類をYの求めに応じて提出し、
Yは、平成元年8月28日、Xに対し、
給与辞令を交付して採用の意思表示をし、
もって、右同日、XとYとの間で期限の定めのない雇用契約が成立しました。
しかし、Yは、採用後業務に就かないことは、
Yに勤務する意思がなく、かつXの態度がYにふさわしくないとして、
Xに対し、平成元年9月1日付で、Xを解雇する旨の意思表示をしました。
そこで、Xは、雇用契約上の地位を有することを確認、
及び賃金の支払を求めて争いました。
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【判決の概要】
移籍の法的性質については、その実態が多様であるため、
一義的に論定できるものではなく、
具体的事案の事実関係に即して検討する必要があるところ、
本件移籍についてみると、
前記第一・二で認定した生協間の関係と本件移籍の経緯に照らせば、
XのZでの退職とYでの採用は、
相互に条件づけられる一体的な関係にあるものと解するのが相当です。
すなわち、本件移籍の場合、
XがYへの移籍を承諾をした時点では、
移籍後の雇用条件、移籍期日ひいては参加生協の退職時期について、
具体的には何も決定されていなかった段階のことであったこと、
移籍後の雇用条件については、Xにとって重大な関心事であり、
移籍承諾後のXとY間の交渉にもっぱら委ねられていたことは、
前記第一・二で認定したとおりであり、
Xが、Yの採否いかんにかかわらず、
Zを積極的に退職することを希望していたというような事情もないこと、
ZとYは別法人であるから、Xを採用するか否かは、
Yが自由に決定できる事項であることなどをも考え併せれば、
Zを退職することを特に積極的に希望していなかったXが、
本件移籍を承諾した時点において、
移籍後の雇用条件に関する多くの交渉事項を残しながら、
Zから退職することのみを確定的に合意する意思を有していたとみることは困難というほかなく、
Xは、Yに採用される限りでZを退職する意思を有していたにすぎないものと認められます。
他方、Zにおいても、生協間の関係と本件移籍の経緯に加えて、
Xの移籍承諾後、Zは、平成元年8月1日付けで退職したものとしてXの退職を先行させたが、
これもXとの退職時期に関する合意に基づくものではなく、
Zが一方的に進めたものであり、
かえって、ZがXの移籍承諾から期日をおいた平成元年8月1日を退職日としたのは、
Yにおける手続等をも考慮して定めたものであり、
退職と採用が間断なく行われることが前提とされていたこと、
ZのA理事は、本件移籍には退職と採用の両方の意味合いがあった旨の供述をしていることからすれば、
Zの立場からみても、
Zの退職はYの採用に伴うものという認識があったものと認められます。
そうすると、本件移籍の事実関係の下では、
Zとの雇用関係の解消とYの採用は、
相互に条件づけられる関係にあるものと解するのが相当であるから、
XのZに対する退職の意思表示は、
本件移籍の実現すなわちYの採用を条件とするものとみるべきであり、
XがYから採用を拒否され、本件移籍が実現しなかったことは、
前記のとおりであるから、
XとZとの間の雇用関係は依然として存続しているものと解するのが相当です。
【関連判例】
→「三和機材事件と転籍」
→「京都信用金庫事件と移籍出向」
→「日立製作所横浜工場事件と転籍」
→「ミロク製作所事件と転籍」
→「日立精機事件と転籍」