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労働者は、使用者に対して、
就労請求権を主張することはできるのでしょうか。
【事件の概要】
Xは、昭和49年7月にY生命保険と雇用契約を締結し、
Yの八王子支社において業務に従事してきました。
Xは、平成3年2月、肩や腕の痛み、不眠等の自覚症状や、
握力の低下、筋肉の硬結等の所見から、頚肩腕障害であると診断されました。
Yは、Xに対し、平成5年2月26日付け「通知書」をもって、
Xを、就業規則第48条1項の(5)(本人の帰責事由により業務上必要な資格を失うなど、該当業務に従事させることが不適当と認めた場合)、
及び同項(6)(その他前各号に準ずるやむを得ない理由があると会社が認めた場合)に基づき、
同年3月1日から6か月間の休職とする旨通知しました(以下これを「第一回休職命令」という)。
Yは、Xに対し、同年8月23日付け「通知書」をもって、
就業規則第48条1項の(5)及び(6)に基づき、
同年9月1日から1年間の休職とする旨通知しました(以下これを「第二回休職命令」という)。
そこで、Xは、頚肩腕障害は通常勤務に何ら支障のない程度にまで回復したから、
就業規則に定める休職事由には該当しないとして、
各休職命令の無効確認、未払賃金の支払い及び慰謝料の支払いを求めて争いました。
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【判決の概要】
Yは、Xの頸肩腕障害の症状の再燃及び増悪可能性がないとはいえないことを理由に、
通常勤務に耐えられないものと判断し、
その結果、就業規則第48条1項(5)(本人の帰責事由により業務上必要な資格を失うなど、該当業務に従事させることが不適当と認めた場合)及び同項(6)(その他前各号に準ずるやむを得ない理由があると会社が認めた場合)に該当するとして、
Xを休職処分にしたものであると認められます。
しかし、右頸肩腕障害の症状の再燃及び増悪の可能性が存在するとしても、
それはXの責めに帰すべき事由に起因するものとはいえないから、
右症状の再燃等の可能性の存在が前記就業規則第48条1項(5)の休職事由に該当しないことは明らかです。〔中略〕
Xの平成5年3月1日の時点における頸肩腕障害の症状及び勤務状況は、
Yにおいて通常勤務を行うことに相当程度の支障をきたすほどのものではないから、
就業規則第48条1項(1)の病気休職事由と同視することはできず、
同項(6)の休職事由には該当しないものと認めることができます。
以上より、第一回休職命令時において、Xには休職事由が存在しなかったものと認められます。
第一回休職命令時において、Xに休職事由が存在しない以上、
第二回休職命令時における休職事由は、
その後の事情の変化等のない限り存在しないところ、
本件においては、前記一の7記載の平成5年8月25日付診断書(〈証拠略〉)によれば、
全日勤務が可能であるばかりでなく、
むしろ同年3月の時点よりもXの症状が改善した旨が述べられているから、
やはり、第二回休職命令時においても、
Xには休職事由が存在しないものと認められます。
Xは労働権の侵害を主張するが、
「労働権」の権利の具体的内容が不明確であり、
法的保護に値する権利であるということはできません。
仮に、Xの主張が就労請求権の侵害を意味するとしても、
使用者は、賃金を支払う限り、
提供された労働力を使用するか否かは自由であって、
労働受領義務はなく、労使間に特約がある場合や特別の技能者である場合を除いて、
労働者に就労請求権はないものと考えられるから、
本件におけるXにも就労請求権はないものと認められます。
【関連判例】
→「読売新聞社事件と就労請求権」
→「レストラン・スイス事件と就労請求権」
→「日本海員掖済会塩釜病院事件と就労請求権」