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特定の組合員に対して、
大幅な賃金減額を内容とする労働協約の変更は、
認められるのでしょうか。
【事件の概要】
Yは、ミシン部品を製造する会社です。
Yでは、Yの主力商品の受注の減少傾向により、
約3か月間営業利益が赤字となったことから人件費の見直しとして、
53歳以上の従業員の月額基本給の大幅減額案が組合に提示され、
団体交渉を経て、組合執行部によって、過去10年間の取扱いと同様に、
各職場での職場会における意見聴取後、代議員会において、
従業員の基本給は53歳到達時に最高で21・7%、
58歳到達以降は23%減額される旨の労働協約が締結されました。
その半年後にも、経営不振を理由に、
全従業員を対象とする給与減額が提案され、
組合が協約締結を拒否したにもかかわらず、
その2か月経過時から減額措置が実施され、
過半数の従業員に適用されたことから、
Yの元従業員Xら15名は、労働協約による給与減額は、
労働協約の締結は組合大会の付議事項とする旨の規約に違反し、
また内容も合理性を欠き無効、
及び全従業員への給与減額措置につき、
従業員の同意を得ていないことから無効であるとして賃金差額等を求めて争いました。
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【判決の概要】
本件労働協約は、53歳以上の労働者のみを対象として、
その基本給を減額するもので、
その減額の程度は53歳の労働者であれば53歳時の基本給を基準として最高21・7パーセント、
58歳の労働者であれば直ちに23パーセントに及ぶものであり、
しかも、その実施を4月1日に遡らせて基本給を減額することを含むものであって、
対象とされた労働者に対する不利益が極めて大きい(ちなみに、53歳以上の労働者数は全体の35パーセントに及ぶ。)のであって、
前記の経緯があるからといって、
労働条件の不利益変更を内容とする本件労働協約締結につき、
組合大会の付議事項としない扱いを肯定することはできないというべきです。
そして、本件労働協約締結後に開催された組合大会において、
報告事項として承認されたとしても(〈証拠略〉)、
そのことをもって協約締結に必要な決議があったとみることもできません(なお、手続が違うので、報告事項としての承認をもって、追認があったものと評価することもできないというべきである。〔中略〕
労働組合は、Yと労働協約等を締結するに当たって、
職場集会による組合員の意見の聴取と代議員会における決議を経て協約等を締結した経緯があったことは前認定のとおりであるが、
Yにおいては、労働組合が結成されて以降、
労働組合との団体交渉等を重ね、
種々の合意を形成してきた経緯からすると、
労働組合の規約において労働協約の締結が組合大会の決議事項である規定されていることは認識していたものと推認することができる上、
今まで締結された協約等は、
従業員の一部であれ賃金の切り下げという労働者の基本的な労働条件を不利益に変更するものではないのであるから、
Yにおいて、本件労働協約のような基本的な労働条件を不利益に変更する場合についてまで代議員会による決議で足り、
組合大会による決議は要しないとの信頼があったとはいえず、
仮にそのように信頼したとしても、本件労働協約の内容に照らし、
そのような信頼を保護すべき場合であるともいえません。
そうであれば、Yの労働組合法6条、民法54条の趣旨を適用すべきであるとの主張は理由がありません。〔中略〕
また、本件労働協約は、53歳に達した労働者に対しその時点での基本給の21・7パーセントの、
また58歳以上の労働者に対しては23パーセントの減額を行うことを内容とするものであるところ、
右減額の程度は当該労働者にとって決して少い(ママ)ものではないにもかかわらず、
調整としては、その改訂基本給のプラス調整(昇給)を行うことがあることを定めているのみである上、
58歳以上の労働者についてはその対象外とされているのであって、
調整規定として不十分であるといわざるを得ないし、
更に、4月1日に遡って実施することについては、
その根拠に乏しく、合理性を欠くといわざるを得ません。
以上のとおりであるから、本件労働協約は、
その締結手続に瑕疵があるので、無効であるといわざるを得ず、
したがって、右協約に基づく給与の減額は、
その効力を認めることはできません。
なお、労働条件の不利益を伴う労働協約であるにもかかわらず、
その必要性及び合理性があるものとも認められないというべきです。
【関連判例】
→「朝日火災海上保険(高田)事件と労働協約の非組合員への拡張適用」
→「日本鋼管(賃金減額)事件と労働条件の不利益変更」
→「鞆鉄道事件と労働協約による賃金減額」
→「中央建設国民健康保険組合事件と労働協約による退職金の減額」