下関商業高校事件と退職勧奨

(最一小判昭55.7.10、広島高判昭52.1.24)

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使用者からの執拗で、繰り返し行われる半強制的な退職勧奨は、

認められるのでしょうか。

【事件の概要】


Y市立高等学校教諭のX1は昭和40年度末から、

X2は昭和41年度末から、それぞれ退職勧奨年齢に達したため、

それぞれ毎年、学校長等から2~3回にわたり退職勧奨を受けてきました。

しかし、X1、X2は、第1回目の退職勧奨以来、

一貫して勧奨には応じないことを表明していました。

昭和44年度末には、勧奨に応じない旨を表明しているにもかかわらず、

計10回以上、職務命令として市教委への出頭を命じられたり、

20~90分にわたって勧奨されたり、

優遇措置もないまま退職するまで勧奨を続けると言われたり、

勧奨に応じない限り所属組合の要求にも応じない態度を取ったり、

異例の年度を跨いで勧奨されたなど、

執拗に退職を勧奨され、不当に退職を強要されたして、

Yらに対して、国家賠償法1条に基づき損害賠償を求めて争いました。

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【判決の概要】


所論の点に関する原審の認定判断は、

原判決挙示の証拠関係に照らし、是認しえないものではなく、

その過程に所論の違法はありません。

論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、

事実の認定を非難するか、

又は独自の見解に立つて原判決の不当をいうものにすぎず、

採用することができません。

【原判決の概要】
退職勧奨は、任命権者がその人事権に基づき、

雇用関係あるものに対し、

自発的な退職意思の形成を慫慂するためになす説得等の行為であって、

法律に根拠を持つ行政行為ではなく、単なる事実行為です。

従って被勧奨者は何らの拘束なしに自由にその意思を決定しうることはいうまでもありません。

なお勧奨は一定の方法に従って行なわれる必要はなく、

退職を求める人事行政上の事情や、被勧奨者の健康状態、

勤務に対する適応性、家庭の事情その他被勧奨者の要望等具体的情況に応じて、

退職の同意を得るために適切な種々の観点からの説得方法を用いることができるが、

いずれにしても、被勧奨者の任意の意思形成を妨げ、

あるいは名誉感情を害するごとき言動が許されないことは言うまでもなく、

そのような勧奨行為は違法な権利侵害として不法行為を構成する場合があることは当然です。

これを本件退職勧奨についてみるに、

(Xらが第1回目勧奨以来一貫して勧奨に応じないことを表明していること、Xらに対して極めて多数回の勧奨が行われていること、その期間もそれぞれかなり長期にわたっていることを認めた上で、)あまりにも執拗になされた感はまぬがれず、

退職勧奨として許容される限界を越えているものというべきです。

また、本件以前には例年年度内(3月31日)で勧奨は打切られていたのに本件の場合は年度を越えて引続き勧奨が行なわれ、

加えてYらはXらに対し、

退職するまで勧奨を続ける旨の発言を繰り返し述べて、

Xらに際限なく勧奨が続くのではないかとの不安感を与え心理的圧迫を加えたものであって許されないものといわなければなりません。

さらに、Yらは右のような長期間にわたる勧奨を続け、

電算機の講習期間中もXらの要請を無視して呼び出すなど、

終始高圧的な態度をとり続け、

当時「組合」が要求していた宿直廃止や欠員補充についても、

本件とは何ら関係なく別途解決すべき問題であるのに、

Xらが退職しない限り右の要求には応じられないとの態度を示し、

Xらをして、右各問題が解決しないのは自らが退職勧奨に応じないところにあるものと思い悩ませ、

Xらに対し二者択一を迫るがごとき心理的圧迫を加えたものであり、

またXらに対するレポート、研究物の提出命令も、

その経過に照らすと、真にその必要性があったものとは解し難く、

いずれも不当といわねばなりません。

本件退職勧奨は、Xらの任命権者である市教育委員会の決定に基づき、

任命権者の人事権に基づく行為であり、

Y1の公権力の行使というべきです。

そしてY2らは自己の職務行為としてXらに退職を勧奨するに当り、

その限度を越えXらに義務なきことを強要したものであり、

これは少くとも過失によるものと認められるから、

Y1はXらに対し、国家賠償法第1条第1項により、

右のごとき違法な退職勧奨によってXらが受けた損害を賠償すべき義務があります。

【国家賠償法】


第一条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

◯2 前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。

【関連判例】


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