今川学園木の実幼稚園事件と解雇権の濫用

(大阪地堺支判平14.3.13)

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住所地の虚偽申告及び通勤手当の不正受給を理由にされた解雇は、

有効なのでしょうか。

【事件の概要】


学校法人であるY1の経営するA幼稚園で担任をもっていた幼稚園教諭で、

内縁の夫と同居していたXは、担任をもって約3か月後に、

切迫流産、子宮頚管ポリープの診断を受け入院することになりました。

そのため、A幼稚園園長Y2に対し、

妊娠及び右診断による入院の必要性を伝えたところ、

Y2からは、中絶するよう暗に迫られ、

その後、XとY2とで話合いがなされた際にも、

Y2から教師としても社会人としても無責任である旨非難されたり、

育児休業中の代替教員の採用は難しいなどとして退職を勧められるなどし、

その後、8月には夏季保育期間の出勤を求められてやむなく出勤し、

そのため再入院し退院のめどがつかない状態になったところ、

Y2から後任の教諭が見つかった旨の連絡があり、退職届の提出も求められたが、

その後、職場復帰を望んでいるにもかかわらず、

Y2からは退職届の提出を要求され続け、

結局、雇用保険被保険者離職票を送付されるなどして退職(解雇)の取扱いをされました。

そこで、Xは、労働契約上の地位の確認及び未払賃金の支払、

Y1及びY2に対し不法行為責任に基づく損害賠償を求めて争いました。

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【判決の概要】


Xが産婦人科の医師から退院後も絶対安静を指示されていたにもかかわらず、

8月19日から出勤していること、

A幼稚園の就業規則では、依願退職の場合、

退職願を提出することが予定されているところ、

XがY2から9月23日に退職届の提出を催促されたが、

その提出をせず、かえって、10月11日には退職強要があったことを理由に組合に加入していること、

8月21日、他の教諭らに妊娠の事実は告げたのに、

その際、退職する予定であるとは告げていないこと、

Y1が離職票や資格喪失報告書において離職理由や資格喪失事由を解雇として取り扱っており、

また、〔中略〕Y1は、当初、10月20日付け解雇としていたこと、

就業規則上、Y1にはXの10月分の給与を満額支給する必要がないにもかかわらず、

本俸について満額支給していること(<証拠略>)を合わせ考慮すると、

7月26日、XとY1との間に本件労働契約の合意解約が成立したと認めることはできません。〔中略〕

確かに、Xは、同年11月ころから、

Bと肩書住所地において同居を始めたにもかかわらず、

Y1には住所地を変更したことを届け出ず、

通勤手当についても従前からの届出住所地である大阪府門真市内からの通勤に要する金額を受給していたことが認められるから、

職員の身上関係に異動があった場合は所属長に速やかに届け出ることを要する旨規定する就業規則6条2項に違反し、

服務規律違反が存したといわざるを得ません。

しかしながら、Xは、前記1(1)イないしエ記載のC教諭の退職に至る一連の事実経過について承知していたことから、

Bと未入籍の状態のまま、

A幼稚園の近隣にある肩書住所地に転居した旨報告すれば、

Y2から厳しい叱責や強い退職勧奨を受ける可能性があると判断して、

住所地の変更を申し出なかったものと認められることや、

Y2が、従前から、園児の父兄らの目があるので私生活に気を付けるように指導していた旨供述していること、

前記認定のとおり、Y2は、C教諭に対し、

結婚後の居住地としては天美地区以外を勧めたことをも合わせ艦みると、

平成11年11月当時、A幼稚園では、

Y2に対して未入籍の状態でA幼稚園の近隣に居住した旨の報告をしづらい状況であったのであり、

そのような状況を作出した一因はY2にもあります。

したがって、住所地の変更を申し出なかったことにつき、

Xのみを非難することはできないというべきです。

以上に加え、住所地の虚偽申告については、

手当の不正受給額以外にはA幼稚園の運営において実害が生じたとの事実が証拠上窺われないこと、

不正受給期間が平成11年11月から平成12年7月までの約9か月間であり、

比較的短期間であることをも併せ鑑みると、

Xの服務規律違反の程度は重大なものとはいえません。〔中略〕

Y1が主張する解雇理由のうち、

住所地の虚偽申告及び通勤手当の不正受給のみが解雇の理由となりうべきものであるところ、

Xが住所地変更を申告できなかったことの一因がA幼稚園の園長であるY2にあること、

住所地の虚偽申告については、

A幼稚園の運営に重大な実害が生じたとの事実が窺われないこと、

通勤手当の不正受給期間が約9か月間と比較的短期間であることを併せ考慮すると、

Xを解雇しなければならない程度の服務規律違反の重大性は認められないから、

本件解雇は解雇権の濫用として無効であるというべきです。

【関連判例】


「高知放送事件と解雇権の濫用」
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