鳥屋町職員事件と退職勧奨

(金沢地判平13.1.15)

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使用者が労働者に対して、

退職勧奨のために出頭を命ずるなどの職務命令を発することや、

近親者に対して退職勧奨に応じるよう説得することを依頼することは、

認められるのでしょうか。

【事件の概要】


Xは、昭和45年5月1日石川県鳥屋町Yの役場事務補助員として採用され、

その後出向等を経て、下水道課主査として勤務していました。

Yでは行政職の職員について男性58歳、女性48歳の退職勧奨制度があり、

上記年齢達する年度の末日の13か月前に当該職員に対して、

退職勧奨する旨の取扱いがなされていました。

Xは、48歳になることを理由に退職勧奨されたが、

これに応じなかったため、

助役から職務行為として町長室に呼出されて退職勧奨されたり、

町長がXの近親者に対しXの退職勧奨の説得を依頼したりし、

またYでは非違行為など特段の事情がない限り1年ごとに一号昇給する運用がなされていたにもかかわらず、

Xが退職勧奨を拒否した以降、Xの昇給はありませんでした。

そのため、Xは、Yに対し、

YはXに特段の事情のない限りXを毎年一号昇給させる義務を負っていると主張して、

Xが昇給していたはずの額と既払額との差額の支払の請求(予備的に差額給与相当額の国家賠償請求)、

本件退職勧奨制度は、地方公務員法13条の平等取扱の原則に反するなどから違法であるとして、

本件退職勧奨、昇給停止等により被った精神的苦痛に対する慰謝料請求しました。

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【判決の概要】


Yでの昇給は、本件給与条例に基づいて行われるものではあるが、

原則として、職制上の地位の変動とは連動せず、

著しい非違行為などの特段の事由のない限り、

1年毎に1号給昇給する運用とされていたことは、

前記判示のとおりです。

しかしながら、地方公務員の給与について条例の定めが要求されている趣旨からすれば、

本件給与条例において、前記判示のとおり規定されている以上、

上記運用実態をもってしても、

Yが特段の事由がない限りXを毎年1号給昇給させる法的義務を負っていると解することはできません。〔中略〕

Yにおいては、昇給は、原則として職制上の地位の変動とは連動せず、

著しい非違行為などの特段の事由のない限り、

1年毎に1号給昇給する運用とされていたことは、

前記判示のとおりであり、

また、前記のとおり、その例外とされた事例としては、

分限処分を受けて降格し、給与が減額された2名の職員の例、

上記分限処分の事由となった事実に関わりがあったため、

自ら申し出た職員1名につき、平成9年の昇給が行われなかった例の他は、

退職勧奨年齢に達しても退職しなかった職員の例があるのみであり、

それ以外には、1年毎の1号給昇給を受け得なかった者はいなかったことが認められるのであって、

これによれば、Yにおいては、分限処分に値するか、

それと同等と評価し得るほどの著しい非違行為があるなどの特段の事情がない限り、

その職員は、本件給与条例第4条第5項にいう「良好な成績で勤務した」と取り扱われてきたものと認めるのが相当です。〔中略〕

Yにおける本件勧奨退職制度は、前記認定のとおり、

行政職の男子と女子とで退職勧奨年齢を10歳も異にするものであって、

その区別について合理的な理由があると認めるに足りる証拠はないから、

右制度は、もっぱら女子であることのみを理由として差別的取扱いをするものであって、

地方公務員法13条に反し違法なものであるといわなければなりません。

また、元来、退職勧奨は、その性質上、

これを行うか否かは任命権者において自由に決し得るものであり、

反面被用者は理由のいかんを問わず、

その自由な意思において、勧奨を受けることを拒否し、

あるいは勧奨による退職に応じないことができるはずのものです。

したがって、任命権者の勧奨行為について、

勧奨の回数等により形式的にその限界を画することはできないけれども、

それは、職務上の上下関係の中でなされるものであるから、

無限定になし得るものとすることはできないのであって、

被勧奨者の自由な意思決定を妨げるような態様でこれを行うことは許されないものというべきであり、

まして、退職勧奨のために出頭を命ずるなどの職務命令を発することは到底許されないものというべきです。

しかるに、前記のとおり、E助役は、

平成8年3月11日、G住民福祉課長及びXを町長室に呼び出し、

町長及びE助役がXに勧奨退職に応じない理由を聞き、

Xがもう少し勤めたい旨述べたのに対し、

町長は、Xに公務員観についてどのように思っているのか質問したが、

Xは答えなかったので、町長はもうよいから帰るよう述べたことが認められるのであって、

町長室での上記会話の内容に、

前記-3に判示した事実経過を考え合わせれば、

Xを町長室に呼び出した目的は、Xに退職を勧奨するためであり、

上記会話はかかる趣旨でなされたものと認めるのが相当です。

そして、助役らが、Xを町長室に呼び出したのは、

YとXとの雇用関係に基づく職務命令行為であると認められるから、

Yは、Xに対し、退職勧奨のために出頭を命ずるなどの職務命令を発したものというべきであり、

かかる態様による退職勧奨行為は、違法であると評価せざるを得ません。

また、前記のとおり、YのA総務課長は、

Xの夫の会社の同僚であるBに、

Xの退職勧奨についてXの夫の意見を聞きたいとして、

Xの夫を呼び出すことを依頼し、上記Bは、平成8年3月8日、

X宅を訪問してその旨Xの夫に申し入れたこと、

町長は、平成8年3月11日朝、Xの夫の兄であるCに対し、

Xが勧奨退職に応じないので、

応じるよう説得してほしい旨依頼したことが認められるところ、

Xが退職勧奨に応じるか否かは、

あくまでXの自由な意思によるべきであるのに、

Xの近親者のXに対する影響力を期待して、

Xが退職勧奨に応じるよう説得することを依頼することは、

退職勧奨方法として社会的相当性を逸脱する行為であり、

違法であると評価せざるを得ません。

そうすると、町長は、

上記(三)の違法な本件退職勧奨制度に基づく上記(四)の違法な本件退職勧奨にXが応じなかったことを主要な原因として、

Xに対し、本件昇給停止という不利益な取扱いを行ったものであって、

前記行為は、違法な公権力の行使といわなければならず、

また、前記事実関係によれば、前記行為に当たり、

町長に少なくとも過失があったことは明らかといわなければなりません。

したがって、Yは、Xに対し、国家賠償法1条1項に基づき、

Xが受けた損害を賠償すべき義務があります。

【関連判例】


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