日本郵便逓送事件と賃金格差

(大阪地判平14.5.22)

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長期雇用労働者と短期雇用労働者との間で、

賃金に差違を設けることは許されるのでしょうか。

【事件の概要】


Yは、郵便局の郵送物の運送等を行う会社です。

Xらは、Yにおいて、3か月の雇用期間で雇用される期間臨時社員として業務に従事し、

4年から8年にわたり契約を更新されてきました。

Xらは、正社員と同一の労働を行っているにもかかわらず、

Yが正社員と同一の賃金を支払わないことは、

同一労働同一賃金の原則に反し公序良俗違反であり不法行為に当たるとして、

賃金差額相当の損害金の支払を求めて争いました。

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【判決の概要】


Xらが主張する同一労働同一賃金の原則が一般的な法規範として存在しているとはいいがたいです。

すなわち、賃金など労働者の労働条件については、

労働基準法などによる規制があるものの、

これらの法規に反しない限りは、

当事者間の合意によって定まるものです。

我が国の多くの企業においては、

賃金は、年功序列による賃金体系を基本として、

企業によってその内容は異なるものの、

学歴、年齢、勤続年数、職能資格、業務内容、責任、成果、

扶養家族等々の様々な要素により定められてきました。

労働の価値が同一か否かは、職種が異なる場合はもちろん、

同様の職種においても、雇用形態が異なれば、

これを客観的に判断することは困難であるうえ、

賃金が労働の対価であるといっても、

必ずしも一定の賃金支払期間だけの労働の量に応じてこれが支払われるものではなく、

年齢、学歴、勤続年数、企業貢献度、勤労意欲を期待する企業側の思惑などが考慮され、

純粋に労働の価値のみによって決定されるものではありません。

このように、長期雇用制度の下では、

労働者に対する将来の期待を含めて年功型賃金体系がとられてきたのであり、

年功によって賃金の増加が保障される一方でそれに相応しい資質の向上が期待され、

かつ、将来の管理者的立場に立つことも期待されるとともに、

他方で、これに対応した服務や責任が求められ、研鑚努力も要求され、

配転、降級、降格等の負担も負うことになります。

これに対して、期間雇用労働者の賃金は、

それが原則的には短期的な需要に基づくものであるから、

そのときどきの労働市場の相場によって定まるという傾向をもち、

将来に対する期待がないから、一般に年功的考慮はされず、

賃金制度には、長期雇用の労働者と差違が設けられるのが通常です。

そこで、長期雇用労働者と短期雇用労働者とでは、

雇用形態が異なり、かつ賃金制度も異なることになるが、

これを必ずしも不合理ということはできません。

労働基準法3条及び4条も、

雇用形態の差違に基づく賃金格差までを否定する趣旨ではないと解されます。

これらから、Xらが主張する同一労働同一賃金の原則が一般的な法規範として存在しているとはいいがたいのであって、

一般に、期間雇用の臨時従業員について、

これを正社員と異なる賃金体系によって雇用することは、

正社員と同様の労働を求める場合であっても、

契約の自由の範疇であり、何ら違法ではないといわなければなりません。〔中略〕

Xらは、仮に、同一労働同一賃金の原則に未だ公序性が認められないとしても、

憲法14条、労働基準法3条、4条の公序性に基づけば、

同一企業内において同一労働に従事している労働者らは、

賃金について平等に取り扱われる利益があり、

これは法的に保護される利益であると主張します。

しかしながら、雇用形態が異なる場合に賃金格差が生じても、

これは契約の自由の範疇の問題であって、

これを憲法14条、労働基準法3条、4条違反ということはできません。

【日本国憲法14条】


すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

◯2 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。

◯3 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。

【労働基準法3条(均等待遇)】


使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。

【労働基準法4条(男女同一賃金の原則)】


使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない。

【関連判例】


「丸子警報器事件と臨時社員の賃金格差」
「京都市女性協会事件と賃金格差」