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正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間にある賃金格差は、
どのような場合に不法行為が成立すると考えられているのでしょうか。
【事件の概要】
Yは、女性の自立支援のための市設立の財団法人です。
Xは、Yで嘱託職員として相談業務に当たり退職しました。
Xは、Yでの労働は、Yの一般職員と同一であるのに、
低い嘱託職員の賃金を支給したことは憲法13条、14条、
労働基準法3条、4条、同一価値労働同一賃金の原則、
並びに民法90条に違反したとして、
Yに対して、損害賠償の支払を求めて争いました。
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【判決の概要】
憲法第14条及び労基法4条の基底には、
正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間における賃金が、
同一(価値)労働であるにもかかわらず、
均衡を著しく欠くほどの低額である場合には、
改善が図られなければならないとの理念があると考えられます。
したがって、非正規雇用労働者が提供する労働が、
正規雇用労働者との比較において同一(価値)労働であることが認められるにもかかわらず、
当該事業所における慣行や就業の実態を考慮しても許容できないほど著しい賃金格差が生じている場合には、
均衡の理念に基づく公序違反として不法行為が成立する余地があると解されます。
そこで、上記の見地から本件をみると、
本件で不法行為が成立するには、
①Xの労働が、一般職員との比較において同一(価値)労働であると認められること、
②Yにおける慣行や就業の実態を考慮しても許容できないほど著しい賃金格差が生じていることが必要であると考えられます。(中略)
このような点からみて、Yは、相談業務の特質に応じて、
それを、Yの業務全体に通暁した基幹職への成長が期待されている一般職員(このような期待をYが持っていることは事業体としては当然のことである。)ではなく、
比較的短期間、在職することが予定され、
相談という専門的で特殊な職能に適応した嘱託職員を採用して割り振り、
担当させていたとみるべきです。
それが使用者の判断として合理性を欠くとは認めがたいし、
その状況に照らすと相談業務を担当する嘱託職員の労働が一般職員の労働と同一価値であるとまで認めることはできません。(中略)
以上によれば、Xの職掌が相談業務及びこれに関連する業務に限定され、
比較対照すべき一般職員が見あたらないうえに、
年齢等の採用条件が一般職員とは異なっており、
また採用後も職務上の拘束が弱く、
負担も一般職員より軽い扱いであったことなどの差異があったと認められ、
これらの点を総合すると、Xの労働が一般職員の労働と比較して、
同一又は同一価値であるとは認めることができません。
そして、改正短時間労働者法においても、
「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」については、
同一(価値)労働同一賃金の原則を法定しているが(同8条)、
それ以外の短時間労働者については努力義務としている(同9条)点に照らせば、
同一(価値)労働と認められるに至らない場合においても、
契約自由の原則を排除して、賃金に格差があれば、
直ちに賃上げを求めることができる権利については、
実定法上の根拠を認めがたいというべきであり、
したがって、賃金に格差がある場合に常に公序違反と扱い、
不法行為に該当すると断定することもできません。
【まとめ】
非正規雇用労働者が提供する労働が、
正規雇用労働者との比較において、
同一(価値)労働であることが認められるにもかかわらず、
当該事業所における慣行や就業の実態を考慮しても許容できないほど著しい賃金格差が生じている場合には、
均衡の理念に基づく公序違反として不法行為が成立する余地があります。
【関連判例】
→「丸子警報器事件と臨時社員の賃金格差」
→「日本郵便逓送事件と賃金格差」