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6か月の雇用契約を10回にわたって反復更新し、
その従事した業務内容も正社員と同様のものであった労働者に対する雇止めは、
認められるのでしょうか。
【事件の概要】
Yは、ダムなどの水利関係施設の製造を業とする会社です。
Xは、嘱託社員として6か月の期間雇用を10回にわたり反復更新する形で、
5年間継続して雇用されてきました。
しかし、Xは、平成8年9月21日に、Yの担当者から、
同年10月14日から平成9年4月13日までを雇用期間とする次回契約をもって、
雇用を終了する旨の告知を受けました。
そこで、Xは、Yに対して、
労働契約上の地位保全と賃金の仮払いの仮処分を申し立てました。
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【判決の概要】
(1)期間の定めのある雇用契約の期間満了による雇止めの効力の判断に当たっては、
当該労働者の従事する仕事の種類、内容、勤務の形態、
採用に際しての雇用契約の期間等についての使用者側の説明、
契約更新時の新契約締結の形式的手続の有無、契約更新の回数、
同様の地位にある他の労働者の継続雇用の有無等を考える必要があります。
これらに鑑み、期間の定めのある雇用契約があたかも期間の定めのない雇用契約と実質的に異ならない状態で存在していたか、
あるいは、労働者が期間満了後の雇用の継続を期待することに合理性が認められる場合には、
解雇に関する法理を類推適用すべきです(最判昭49・7・22民集28巻5号927頁、最判昭61・12・4裁判集149号209頁、最判平3・6・18労働判例590号10頁(ママ)参照)。
(2)これを本件についてみると、確かに、
一件記録によれば、Xは、合計10回の契約更新により5年間にわたり継続してYに雇用され、
その従事した業務内容も正社員と同様のものであったということができます。
この期間、回数のみからみれば、なるほどXにおいて、
Yが継続雇用を行うことを期待すべき事情があったといえなくもありません。
(3)しかし、一件記録によると、Yは、
従前定年退職者を対象として行ってきた嘱託社員制度の対象者に、
比較的高年齢者で特に技能を有する者を例外的に加えてきた経緯が認められます。
すなわち、Yでは、比較的高年齢者の就職希望者に関し、
その技能に着目して、期間、賃金等の雇用条件をその都度明示して、
就職希望者がこれに合意する場合に限り、
雇用契約の締結ないしその更新契約を締結してきたものです(なお、Xは、その賃金等の労働条件が正社員と同様に扱われていた旨主張する。しかし、Xの賃金等は、雇用契約ないし更新契締結の都度、Yとの間で合意されたものであり、その際に正社員の労働条件が参考されたことがあるとしても、そのことをもって、Xの労働条件が正社員と同様に扱われていたとはいえない)。
その上、Yの担当者が、Xを採用するに際し、
Xに対し、長期継続雇用をするとか、
正社員として採用することを期待させるような言動をしたことを認めるに足りる疏明がありません。
また、前示補正して引用した原決定「事実及び理由」第三の説示のとおり、
相手方においては、嘱託社員の雇用契約更新の可否を、
その都度実質的に審査し、これを可とする判断をした場合にのみ、
その更新を行っており、Xについても、本件雇止めに至るまで、
右のような実質的な審査の結果を踏まえて雇用契約の更新が行われてきたことが認められます。
(4)さらに、前示補正して引用した原決定「事実及び理由」第三の説示のとおり、
Xは、平成8年9月21日には、既にYの担当者から、
同年10月14日から平成9年4月13日までを雇用期間とする次回契約をもって雇用を終了する旨の告知を受けていたものです。
その上右説示のとおり、Xの勤務態度には、問題がなかったとはいえません。
それのみならず、一件記録によると、Yの担当者は、
Xに対し、加工ミス等につき厳重な注意をしていたが、
Xの勤務状況の改善がなされなかったことが認められます。
(5)なお、Xは、嘱託社員で60歳未満で雇止めをされた者はほとんどいない旨主張します。
しかし、そもそも嘱託社員は、Yにおいて、
定年退職者の中から勤務成績、技能等の優秀な者を再雇用するために発足した制度です。
そして、Yは、その後、同制度の適用範囲を、定年退職者以外の者で、
相手方がその技術をとくに必要とする場合にも拡大しました。
このため、Yは、定年退職者以外の嘱託社員の採用をとくに右のような技能者を必要とする場合に限定しています。
Yは、その後の更新に際しても、
その都度その必要性を吟味して、更新契約をしてきました。
そうであるから、仮に嘱託社員で60歳未満で雇止めされた者がほとんどいなかったとしても、
そのことが、直ちに、本件雇用契約が、
期間の定めのない雇用契約と実質的に異ならない状態であったとか、
あるいは、Xが期間満了後の雇用の継続を期待することに合理性があったことに結びつくものではありません。
(6)そもそも、民法は、期間の定めのある雇用契約を適法と認めています。
そして、これを修正する特別法はありません(労働基準法14条は、期間の上限を定めるにすぎない)。
そうであるから、当事者が、
期間の定めのある労働契約の締結ないし更新をする明確な意図のもとで、
その合意をしている場合には、その意思に即した効果が認められます。
(7)前示(3)ないし(6)の認定判断によれば、
前示(2)の事情があることを斟酌しても、
本件に関し、期間の定めのある雇用契約があたかも期間の定めのない雇用契約と実質的に異ならない状態で存在していたとか、
Xが期間満了後の雇用の継続を期待することに合理性が認められる場合に当たるものと認めることができません。
【関連判例】
→「日立メディコ事件と有期契約の更新拒絶(雇止め)」
→「東芝柳町工場事件と有期労働契約の反復と雇止め」
→「龍神タクシー事件と短期労働契約の更新拒否(雇止め)」
→「ロイター・ジャパン事件と短期労働契約の更新拒否(雇止め)」
→「旭川大学事件と短期労働契約の更新拒否(雇止め)」
→「カンタス航空事件と有期労働契約の更新拒否(雇止め)」
→「京都新聞COM事件と有期労働契約の更新拒否(雇止め)」
→「明石書店(製作部契約社員・仮処分)事件と有期労働契約の更新拒否(雇止め)」
→「近畿コカ・コーラボトリング事件と有期労働契約の更新拒否(雇止め)」
→「雪印ビジネスサービス事件と短期労働契約の更新拒否(雇止め)」
→「本田技研工業事件と有期雇用契約の更新拒否(雇止め)」
→「日本郵便(苫小牧支店時給制契約社員B)事件と短期労働契約の更新拒否(雇止め)」