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雇用期間を1年として採用された労働者に対する更新拒否の通知につき、
労働者に契約更新を期待する合理的理由があったといえるのでしょうか。
【事件の概要】
Yは、正社員の採用を予定し、Xを含めて7名のトランスレーターを採用しました。
その際、Yは、6名については正社員としての雇用契約書(通知書)を作成し、
Xとの間でのみ1年の期限付きの雇用契約書(通知書)を作成しました。
Yは、Xに対して、契約の更新はしない旨通知したところ、
Xは、Yに対して、主位的に、Yと期間の定めのない労働契約を締結したから、
Yのした雇用関係を終了する旨の通知は解雇に該当するとして、その効力を争い、
予備的に、Yとの労働契約が期間の定めのある契約であったとしても、
更新拒絶は信義則上許されないとして、
労働契約上の地位を有することの確認を求めて争いました。
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【判決の概要】
新聞に掲載された募集広告(〈証拠略〉)によれば、
それが正社員の募集であることは否定できないし、
Yとしても原則として正社員の採用を予定していたことは前記のとおりです。
しかし、雇用契約は、使用者と労働者の間で個別的に締結されるものであり、
新聞の募集広告はそれ自体契約の申込みということはできないのであって、
新聞の募集広告も期間の定めのない雇用契約の根拠とはなりません。
むしろ、正社員の採用を予定し、
Xを含めて7名のトランスレーターを採用したYが、
6名については正社員としての雇用契約書(通知書)を作成し、
一人Xとの間でのみ期限付きの雇用契約書(通知書)を作成したこと、
そもそもYにおいては、
正社員がほとんどで契約社員の例は極めて少ないことなどに照らせば、
Yにとって、契約社員としてXを採用するのは異例のことであったというべきで、
したがって、通知書(〈証拠略〉)の期間の定めを形式的なものとする認識は全くなく、
文字通り期限付きの雇用契約を締結する意思で、
右通知書を作成したものということができます。
そして、Xにおいても、
Aの発言から期間満了後も契約の更新や正社員への採用があるとしても無条件ではないことを認識し、
その上で前記のとおり、通知書に署名していること、
さらに前記のとおり、
Bから中間パフォーマンス・レビューの結果の説明を受ける際、
Xの雇用期間が1年である旨説明されて異議を述べていないことなどに照らせば、
Xとしても自分が期限付きの契約社員であることを認識していたというべきです。
右によれば、本件雇用契約は、期限付きの契約というほかなく、
他にXの主張を認めるに足りる証拠もないから、
Xの主張は採用できません。〔中略〕
期限付き雇用契約の更新拒絶等が信義則上許されないのは、
当該雇用契約について、
労働者に契約更新を期待する合理的理由がある場合であることは確立した判例であり、
当該労働者の期待が合理的かどうかは、
当該雇用契約時の状況、就業実態や待遇、
契約更新の手続等の事情を総合的に考慮して決すべきものと解せられるところであるので、
以下この点について検討します。
Xが、その主張の根拠の1つとする前記Aの発言であるが、
その発言が契約更新あるいは正社員への採用の可能性もあるという程度の趣旨に止まることは前記認定のとおりであり、
右発言からXが何らかの期待を抱いたとしても、
それは主観的なものにすぎないというほかなく、
右期待に合理的理由があるということはできません。
【関連判例】
→「日立メディコ事件と有期契約の更新拒絶(雇止め)」
→「東芝柳町工場事件と有期労働契約の反復と雇止め」
→「龍神タクシー事件と短期労働契約の更新拒否(雇止め)」
→「丸島アクアシステム事件と短期労働契約の更新拒否(雇止め)」
→「旭川大学事件と短期労働契約の更新拒否(雇止め)」
→「カンタス航空事件と有期労働契約の更新拒否(雇止め)」
→「京都新聞COM事件と有期労働契約の更新拒否(雇止め)」
→「明石書店(製作部契約社員・仮処分)事件と有期労働契約の更新拒否(雇止め)」
→「近畿コカ・コーラボトリング事件と有期労働契約の更新拒否(雇止め)」
→「雪印ビジネスサービス事件と短期労働契約の更新拒否(雇止め)」
→「本田技研工業事件と有期雇用契約の更新拒否(雇止め)」
→「日本郵便(苫小牧支店時給制契約社員B)事件と短期労働契約の更新拒否(雇止め)」