京都新聞COM事件と有期労働契約の更新拒否(雇止め)

(京都地判平22.5.18)

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契約社員として雇用され、複数回契約更新した労働者が、

使用者の経営状態の悪化を理由に雇止めされたが、

当該雇止めは認められるのでしょうか。

【事件の概要】


株式会社C(以下「C」という )は、平成13年4月、

社内にあった企画事業局、メディア局出版部の業務をD株式会社(以下「D」という )に委託するようになりました。

Yは、平成18年4月1日、Cの事業部門であるE新聞の販売、広告等の各業務について、

Cの委託によりそれらを行うためにCの全額出資により設立された子会社です。

従前、Dの企画制作部で担当していた業務の一部は、

同日からYに承継されることになりました。

X1は、平成13年6月1日、Dとの間で、

雇用契約期間を6か月とする雇用契約を締結してDで勤務し、

平成18年4月1日からYで勤務するようになりました。

X1は、この間、Dとの間で、平成13年12月1日、

平成14年4月1日、 同年10月1日、 平成15年4月1日、

同年10月1日、平成16年4月1日、平成17年4月1日に雇用契約を更新し、

Yに移籍してからは 平成19年4月1日、

平成20年4月1日に契約を更新しました( 平成16年4月1日から雇用契約期間は1年となった。)。

X2は、平成16年5月1日、Dとの間で、

雇用契約期間を11か月とする雇用契約を締結して勤務を始め、

平成18年4月1日からYで勤務するようになりました。

X2は、この間、Dとの間で、平成17年4月1日に雇用契約を更新し、

Yに移籍してからは、平成19年4月1日、平成20年4月1日に契約を更新しました(雇用契約期間は1年であった。)。

Yは、平成20年6月2日、Xらに対し、

平成21年3月31日をもって雇用契約を更新しない旨の通知をしました。

そこで、Xらは、主位的に、XらとYとの雇用契約は更新が繰り返された結果、

期間の定めのない雇用契約に転化しており、

雇止めは無効であると主張して、

予備的に、期間の定めのある雇用契約であったとしても解雇権の濫用にあたると主張して、

Yに対し、雇用契約上の地位にあることの確認(主位的に期間の定めのない雇用契約、予備的に期間の定めのある雇用契約)と賃金の支払を求めて争いました。

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【判決の概要】


使用者と労働者の間で期限の定めのある雇用契約が締結された場合であっても、

①更新が繰り返され、更新手続が形式的であるなど、

当該雇用契約が期間の定めのない契約に転化したり、

実質的に期間の定めのない雇用契約と異ならない状況になった場合には、

普通解雇の要件に準じた要件がなければ使用者において雇用契約を終了させることができず、

②労働者が継続雇用の合理的期待を有するに至ったと認められる場合には、

期間の満了により直ちに雇用契約が終了するわけではなく、

使用者が更新を拒絶するためには、

社会通念上相当とされる客観的合理的理由が必要であると解されます。

そこで、まず、XらとYとの間の雇用契約が期間の定めのない雇用契約に転化した、

あるいは実質的に期間の定めのない雇用契約と異ならない状況になったといえるかについて検討します。<中略>

XらとYとの間で締結された雇用契約の更新にあたっては、

必ず契約社員雇用契約書を取り交わしており、

その契約書では、4か月ないし1年間の期間の定めのある労働契約であることが明記されていたこと、

DやYにおいては、正社員と契約社員は、採用方法が異なるほか、

入社後においても、転勤や業務内容の変更の有無等が異なっていること、

DやYでは契約社員から正社員への登用試験が存在し、

現にその試験に合格して正社員になった者がいること、

Dにおいては、3年を超えて勤続している契約社員がいるが、

3年以内で退職した、あるいは3年で退職した者もかなりの数存在することなどの事実関係からすると、

XらとDあるいはYとの雇用契約の更新が形式だけのものであったということはできず、

XらとYとの雇用契約が、Xらが主張するように、

期間の定めのない雇用契約に転化した、

又はそれと実質的に異ならない関係が生じたと認めることはできません。<中略>

Yは、契約社員については3年を超えて更新されないという3年ルールが存在すると主張するところ、

XらとYとの間で3年ルールが契約内容として認識されているのであれば、

Xらが3年を超えて雇用契約が更新されることについて合理的な期待を持つことはありえないということができるので、

まず、この点を検討します。<中略>

そうすると、上記の説明会において、3年ルールについて一応述べたものの、

Xらに対する説明としては不十分なものであったということができ、

他にYやYの開設準備室において、Xらに対し、

本件雇止めに至るまでに3年ルールについて説明したと認めるに足りる証拠はありません。

したがって、3年ルールについて説明をしていたことを理由としてXらにおいて契約期間満了後も雇用継続を期待することは合理的ではなかっ
たとするYの主張は採用できません。

そこで、さらに、3年ルール以外の点も検討し、

Xらにおいて契約期間終了後も雇用継続を期待することが合理的であったかについて検討します。

まず、契約期間であるが、前記のとおり、

X1については、勤続年数7年9か月、更新回数10回、

X2については、勤続年数4年11か月、更新回数は4回に及んでいること、

Xらの業務は、広告記事の作成やイベントの運営など、

新聞編集等の業務と比べると軽いものではあるが、

ほぼ自分の判断で業務を遂行しており、

誰でも行うことができる補助的・機械的な業務とはいえないこと、

Xらは、契約の満了時期を迎えても、翌年度に継続する業務を担当しており、

当然更新されることが前提であったようにうかがえることなどからすると、

Xらとしては、契約の更新を期待することには合理性があるといえます。

したがって、XらとYとの間の雇用契約については、

期間の満了により直ちに雇用契約が終了するわけではなく、

使用者が更新を拒絶するためには、

社会通念上相当とされる客観的に合理的な理由が必要であると解されます。

Yは、この点について、Yを含めたCグループの経営状態が極めて厳しく、

Xらとの契約を更新しないことについて合理的な理由がある旨主張します。

確かに、Cにおける主要な収入源の一つである広告収入が大幅に減少しており、

Cの営業利益は、平成20年度は赤字となり、

平成22年度の正社員の募集をしなかったなど、

解雇もやむを得ないことをうかがわせる事情はあるが、

Yについての経営状態が明らかではなく、

これまでXらに対し3年ルールを十分に周知せずに契約の更新が重ねられてきたことなどからすると、

3年ルールの告知がされてから未だ3年に満たない時期にされた本件雇止めを相当とする合理的理由があるとまではいえません。

したがって、本件雇止めは無効であるから、

Xらは、現在もYにおいて期間の定めのある契約社員としての地位にあるといえます。

【関連判例】


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