本田技研工業事件と有期雇用契約の更新拒否(雇止め)

(東京高判平24.9.20)

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労働者が不更新条項が盛り込まれた雇用契約を締結した後、

契約満了により雇止めされたが、

当該雇止めは認められるのでしょうか。

【事件の概要】


Yは、四輪車等の製造、販売等を目的とする株式会社です。

Xは、Yとの間で、有期雇用契約に基づき、

平成9年12月1日から平成20年12月末日までの11年余にわたって、

有期雇用契約の締結、更新、契約期間満了・退職、

一定期間経過後の再入社・新規有期雇用契約の締結を繰り返し、

Yの自動車製造ラインの業務に従事してきました。

Yは、平成20年9月29日にXとの間で締結された、

同年10月1日から契約期間2か月とする雇用契約(「本件直前雇用契約」という)の終了前である平成20年11月26日に開催された説明会で、

リーマン・ショック後の厳しい世界経済情勢を理由に、

完成車減産とそれに伴う栃木製作所の対応等についてYから説明を受け、

また、同月28日には、やむなく期間契約社員全員を雇止めせざるを得ない等の説明を受け、

同日、Xは、本契約は平成20年12月1日より平成20年12月31日までとし、

この期間の満了をもって終了し、

契約更新はしないものとする旨の不更新条項を規定する本件雇用契約を締結し、

同年12月18日に、平成20年12月31日をもって退職する旨記載した本件退職届を提出しました。

Yは、Xの契約期間の満了により、

期間雇用社員契約の更新を拒絶(雇止め)しました。

そこで、Xは、雇止めが違法無効であるとして、

雇用契約上の地位確認等を求めて争いました。

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【判決の概要】


Yにおいては、正社員と期間契約社員は、就業規則が別々に規定されており、

採用手続もその厳格さにおいてまったく異なり、

期間契約社員は契約期間ごとに更新手続がされており、

実際にも多くの期間契約社員の在籍期間が短期間にとどまっていることは原判決理由説示のとおりであり、

これらの点を総合考慮すれば、

Yは、正社員については、長期雇用を前提とし、

職種の限定のない基幹的労働者として位置づけているのに対し、

期間契約社員は、そのような正社員の雇用継続を前提とした上で、

景気変動、生産計画の変動等による製造ラインの需給調整に対応する臨時的・一時的雇用者として位置づけていると認められるのであり、

Xの主張は採用できません。

Xは、正社員登用制度によって正社員になった期間契約社員が4分の1以上を占める旨を主張するが、

平成12年ないし20年の同制度の合格率は平均すると約10%程度であったことが認められ、

正社員にたやすく登用されるような運用の実態であったということはできないので、

その実績のみを持ってYが期間契約社員を正社員の供給源と位置づけていたと認めることは困難です。

Xは、平成20年11月28日、勤務シフト別に期間契約社員に対して開催された説明会に出席し、

栃木製作所においては、部品減産に対応した経営努力(モジュール間の配置換え等)だけでは余剰労働力を吸収しきれず、

そのため、期間契約社員全員を雇止めせざるを得ないこと等について説明を受け、

Xは、上記の説明を理解し、もはや期間契約社員の雇止めは回避しがたくやむを得ないものとして受け入れたこと、

Xは、本件雇用契約書と同じ契約書式にはそれを明確にするための雇止めを予定した不更新条項が盛り込まれており、

また、その雇止めが、従前のような契約期間の満了、退職と空白期間経過後の再入社という形が想定される雇止めではなく、

そのようなことが想定されず、再入社が期待できない、

これまでとはまったく趣旨を異にする雇止めであると十分理解して任意に同契約書に署名しました。(中略)

Xは、本件雇用契約は、従前と異なって更新されないことを真に理解して契約を締結したことが認められます。

Xは、不更新条項付きの本件雇用契約を締結することによって、

余剰人員が未だ発生していない状況で、

平成20年12月末までXを働かせた上で、

同人の雇用継続を求める権利を奪うことができる一方で、

Xには得るものがなく、等価関係が不存在であると主張するところ、

そのような事情は、労働者が経済的な理由から種々の条件を勘案した上で有期雇用契約を締結したような場合には、

労働者が真に自由な意思で種々の条件と不更新条項との利害得失について考慮した上で合意したか否かを判断する際に斟酌する余地があるとしても、

本件のように、Xが自らの自由な意思に基づいて不更新条項を定める本件雇用契約を締結したと認められる場合に、

等価関係の不存在のみを理由に不更新条項の効力を制限することはできないというべきであるから、

Xの上記主張は採用できません。

【関連判例】


「日立メディコ事件と有期契約の更新拒絶(雇止め)」
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