X学園事件と契約期間途中での解雇

(さいたま地判平26.4.22)

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労契法17条1項にいう「やむを得ない事由」とは、

どのような場合に認められるのでしょうか。

【事件の概要】


Yは、大学等を運営する学校法人です。

Xは、Yに学生相談室カウンセラーとして有期契約で雇用された臨床心理士で、

平成3年4月1日に1年の有期契約でYに雇用され、更新を繰り返し、

平成23年4月1日にも平成24年3月31日までの1年契約で更新しました。

ところが、Yは、Xに対し、

平成23年8月29日付けの通知書をもって(「勤務実績が著しく不良」の理由により)解雇の意思表示をしました。

そこで、Xは、解雇は無効であり、

その後のYによる雇止めには合理的な理由がないとして、

雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認及び賃金等の支払いを求めて争いました。

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【判決の概要】


有期労働契約は、期間中は当事者双方が雇用を継続しなければならないという点で、

雇用の存続期間を相互に一定期間保障し合う意義があることに照らせば、

労働契約法17条1項にいう「やむを得ない事由」は、

期間の定めのない労働契約の解雇において必要とされる「客観的に合理的で、社会通念上相当と認められる事由」よりも厳格に解すべきであり、

その契約期間は雇用するという約束があるにもかかわらず、

期間満了を待つことなく直ちに雇用を終了させざるを得ないような特別の重大な事由と解すべきです。

しかるところ、これまでに認定・説示したとおり、

業務日誌の不提出については、

これにより健康相談センターの学生相談部門による総合的な学生支援業務の遂行に支障が生じたか否かは証拠上判然としないこと、

執務場所の変更については、1か月強遅れたものの実現していること、

アンケートについては、実施日数は3日で、

回収枚数は10枚に満たないことに鑑みれば、

これらのXの行為が平成24年3月末日の本件雇用契約の契約期間満了を待つことなく平成23日8月29日に直ちにXの従業員としての地位を喪失させざるを得ないような特別の重大な事由に当たるとすることには躊躇せざるを得ません。

X・Y間の雇用契約が反復更新されて期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存続しているということはできないが、

雇用継続に対するXの期待利益には合理性が認められるというべきであり、

したがって、解雇権濫用法理を類推適用し、

雇止めには合理的な理由が必要であるというべきです。

合理的な理由の有無について検討するに、Xの業務日誌の不提出及び執務場所の変更の遅れは、

いずれもYの業務命令に違背するものであり、

また、アンケートの実施は、Yの就業規則19条(職場内規律)に触れるものであって、

その態様等に照らし、

Yが本件雇用契約を更新しなかったことには客観的に合理的な理由があり、

社会通念上相当と認められます。

【労働契約法17条(契約期間中の解雇等)】


使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。

◯2 使用者は、有期労働契約について、その有期労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その有期労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない。

【まとめ】


労働契約法17条1項にいう「やむを得ない事由」は、

期間の定めのない労働契約の解雇において必要とされる「客観的に合理的で、社会通念上相当と認められる事由」よりも厳格に解すべきであり、

期間満了を待つことなく直ちに雇用を終了させざるを得ないような、

特別の重大な事由であることが求められます。

【関連判例】


「学校法人東奥義塾事件と契約期間途中での解雇」
「安川電機八幡工場事件と契約期間途中での解雇」