安川電機八幡工場事件と契約期間途中での解雇

(福岡高決平14.9.18)

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整理解雇の要件を満たす場合において、

短期雇用契約を締結した労働者を、

契約期間途中で解雇することは認められるのでしょうか。

【事件の概要】


Yは、電気機械器具の製造・販売等を主な事業目的とする会社です。

X1、X2はYの「Dスタッフ」と呼ばれる短時間契約従業員として、

3か月の雇用期間を定めて雇用され、

モーターに取り付ける検出器の調整取付けに従事していました。

X1は14年間、X2は17年間、同様の契約が更新されてきました。

X1らは平成13年6月20日頃、同月21日から同年9月20日までの契約更新手続を行いました。

平成13年6月27日頃、YはX1らに「パート退職願い」用紙を配布し、

退職理由欄には「会社都合」と記入し、押印の上提出するよう指示しました。

同年7月25日、Yは、X2を含む14名に対して同年6月25日に、

X1を含む7名に対して同月26日に解雇予告をしていたとして、

X1には7月26日、X2には7月25日をもって解雇する旨の意思表示をしました。

そこで、Xらは、Yの整理解雇の意思表示が、解雇予告義務に反し、

解雇理由が存在せず解雇権濫用であり無効である等主張し、

労働契約上の地位保全及び賃金仮払いの仮処分を求めて争いました。

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【判決の概要】


Yは、同年6月27日ころ、上記解雇予告をしたパートタイマー従業員全員に、

「パート退職願い」用紙を配布して、

これに記入・押印して提出するよう指示したことが認められるが、

その際、退職理由欄には「会社都合」と記入するよう指示しており、

「パート退職願い」用紙を配布したことをもって、

上記通告が退職勧奨であって、解雇予告ではないとは認められません。

また、(証拠略)によれば、Yと支部との団体交渉の過程で、

Yが上記「退職願い」の提出をもって解雇を受け入れたものと判断する旨発言したことは認められるが、

同発言をもって、解雇予告を撤回したものとは認められないし、

その他、Yが、解雇予告を撤回したと認めるに足りる疎明資料はありません。

したがって、Yに解雇予告義務違反は認めらません。

Xらは、雇用期間を各3か月と定めて雇用された従業員であり、

平成13年6月20日ころ、Yとの間で、

同月21日から同年9月20日までの期間を定めた労働契約を締結しているところ、

このように期間の定めのある労働契約の場合は、

民法628条により、原則として解除はできず、

やむことを得ざる事由ある時に限り、

期間内解除(ただし、労働基準法20,21条による予告が必要)ができるにとどまります。

したがって、就業規則9条の解雇事由の解釈にあたっても、

当該解雇が、3か月の雇用期間の中途でなされなければならないほどの、

やむを得ない事由の発生が必要であるというべきです。

ところで、後記のとおり、Yの業績は、

本件解雇の半年ほど前から受注減により急速に悪化しており、

景気回復の兆しもなかったものであって、

人員削減の必要性が存したことは認められるが、

本件解雇により解雇されたパートタイマー従業員は、合計31名であり、

残りの雇用期間は約2か月、Xらの平均給与は月額12万円から14万5000円程度であったことやYの企業規模などからすると、

どんなに、Yの業績悪化が急激であったとしても、

労働契約締結からわずか5日後に、

3か月間の契約期間の終了を待つことなく解雇しなければならないほどの予想外かつやむをえない事態が発生したと認めるに足りる疎明資料はありません。

Yの立場からすれば、Xらとの間の労働契約を更新したこと自体が判断の誤りであったのかもしれないが、

労働契約も契約である以上、

Yは、Xらとの間で期間3か月の労働契約を更新したことについての責任は負わなければならないというべきです。

したがって、本件解雇は無効であるというべきです。〔中略〕

Xらが14~17年間もの長期にわたって、

3か月ずつの雇用期間を多数回にわたって更新してきたことからすれば、

YがXらとの間の労働契約を更新しなかったことについて、

解雇に関する法規制が類推適用される余地があるというべきです。〔中略〕

以上の事実によれば、Xらが、雇用期間3か月で、

勤務時間も正規社員より短いパートタイマー従業員であり(証拠略)、

八幡工場においては、パートタイマー従業員数は、

Yの業績に応じて短期間にかなり変動していること(証拠略)も考慮すれば、

以下のとおり、本件においては、いわゆる整理解雇の4要件の内、

人員削減の必要性、解雇回避努力、手続の妥当性の3要件は満たされていると一応判断することができます。〔中略〕

被解雇者選定の妥当性について検討するに、

Yが設定した前記(2)エの被解雇者の選定基準自体には、

合理性が認められるというべきです。
 
そして、(証拠略)によれば、X1は、

出勤率は84.23パーセントでその所属班(同班の被解雇者の割り当ては3名)の4番目に悪かったほか、

無断欠勤や無断遅刻があり、

これまでにも上司に注意をされたが是正されていなかったことが認められるから、

上記選定基準に該当し、YがX1を選定したことに違法は認められません。

しかし、X2については、(証拠略)によれば、

出勤率で40名のリストに登載されたことは認められるものの、

その率は90.40パーセントで所属班(同班の被解雇者の割り当ては3名)の7番目であり、

率、順位ともそう高くないところ、

Yが主張するX2の勤務態度や協調性の問題点については、

時期、態様等について具体的な主張がなく、

これを疎明するに足りる客観的な資料や他の候補者との比較資料の提出もなく、

さらに、Yが、当初、X2に対して年齢とか勤務状況であると答え、

その後も具体的な理由は明確にされていなかったこと(証拠略)に照らし、

X2が選定されたことが妥当であると認めるに足りる疎明はないというほかありません。

したがって、X2については、

仮の地位を定める仮処分についての被保全権利の存在が一応疎明されているというべきです。

【関連判例】


「学校法人東奥義塾事件と契約期間途中での解雇」
「X学園事件と契約期間途中での解雇」